第26回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原裕次郎記念館協賛)が9日、決定した。

 新人賞の黒木華(はる=23)は「草原の椅子」「舟を編む」などの作品でまったく印象の異なる役を演じ切り、賞を射止めた。それぞれ描かれる世界にしっかりと溶け込み、自分の魅力を発揮しながら、作品を支える役割まで担った。「まさか自分がいただけるとは思わなかった」と謙遜しながら受賞を驚くが、出演作として山田洋次監督(82)の新作が控えるなど、映画界期待の存在だ。

 静かに映っているだけで作品そのものをどんどん魅力的にしていく。黒木はそんな女優だ。「草原の椅子」では親に虐待を受けた4歳の子供を引き取り、育てようとする女子大生。異色の設定も自然体で演じた。「舟を編む」ではファッション誌から辞書編集部に異動になり、やがて辞書作りに魅了されていく編集者。心情の変化をこちらも自然体で演じた。「自分で、こういう風にやるとは決めてかからない。監督や共演者と細かく話し合った。自分だけで、やらないように気をつけています」。

 高校時代、野田秀樹の舞台に衝撃を受けた。京都造形芸大2年の時に野田の舞台で女優デビュー。「アンサンブル(その他大勢の出演者)でしたが『ずっと女優を続けたい』と決心がつきました」。続く舞台「表に出ろいっ!」ではいきなり、野田と故18代目中村勘三郎さんとの3人芝居のヒロインに抜てきされた。

 女優としての成長の節目にはレジェンドとの出会いが続く。映画「くじけないで」で八千草薫、「舟を編む」でも加藤剛と共演した。「経験の少ない私にとって勉強になることが多い。いろいろ学んでそれを整理して、次の現場で少しでも生かせるようになれば」。

 出演中のフジテレビ系「リーガルハイ」では堺雅人、里見浩太朗と共演。来年1月公開の山田監督の新作映画「小さいおうち」では準主役に抜てきされた。「草原の椅子」で父親役の佐藤浩市から「ドラマは反射神経がいる」と貴重で分かりやすいアドバイスをもらった。

 「出会いの運がすごくいい。自分はできることを一生懸命やってきただけ。作品の中の役として生きていけるような女優になれたら幸せですね」。【小谷野俊哉】

 ◆黒木華(くろき・はる)1990年(平2)3月14日、大阪府生まれ。10年「NODA

 MAP」など舞台で活躍、11年「東京オアシス」で映画デビュー。今年は「シャニダールの花」で初主演を務めるなど、映画4本に出演。12年度下半期のNHK連続テレビ小説「純と愛」に出演。現在はフジテレビ系「リーガルハイ」に出演中。164センチ、血液型B。

 ◆草原の椅子

 遠間(佐藤浩市)は離婚後、娘(黒木華)と2人暮らし。平凡な人生に3つの変化が起きた。貴志子(吉瀬美智子)への恋心、取引先の社長富樫(西村雅彦)という親友の存在、親に虐待を受けていた圭輔(貞光奏風)との出会い。心の傷を抱える4人は世界最後の桃源郷と呼ばれるパキスタン・フンザへの旅を決意。圭輔への愛情を強く感じ始めた遠間は貴志子から思わぬ提案をされる。成島出監督。

 ◆新人賞・選考経過

 「自分で役を考えて演じている」(伊藤さとり氏)と役作りに定評のある二階堂ふみと、「将来性、今が旬という意味で賞をあげたい。日本の女優さんの香りがする」(須永智美氏)という黒木華に票が集まった。決選投票では大差で黒木に決定。「孫のような年ですが励まされた」(残間里江子氏)と「おしん」に出演した9歳の浜田ここねを推す声もあった。