<日刊スポーツ映画大賞:石原裕次郎賞・降旗康男(少年H)>◇28日◇ホテルニューオータニ

 「少年H」で石原裕次郎賞を獲得した降旗康男監督(79)が、天国の裕次郎さんに思いをはせた。「いつも思い出すのは、大きな杯に冷や酒をなみなみとついで(裕次郎さんに)『酔いざましだ』と言われ、1杯あおって朝の撮影に向かう情景です」。テレビドラマを手掛けていた1970年代から付き合いのあった裕次郎さんとの思い出に、しみじみと酔っていた。

 昨年は高倉健(82)と組んだ「あなたへ」で同賞を手にした。今年は、太平洋戦争から戦後の日本で、戦乱を生き抜いた一家を描いた「少年H」で、自身2年連続4度目の栄冠。盾を授与した石原まき子さんからは「戦争の時代を細やかに描いて下さった。戦争を忘れてはいけない日本人に、素晴らしい映画をお撮りいただいた」と感謝の言葉をかけられた。

 空襲や焼け野原など、実写化が難しい場面が多く、原作者の妹尾河童氏(83)からは映画化の話を断られてきた。やっとOKをもらった作品は、運命に導かれるように、スケールの大きな作品に贈られる石原裕次郎賞に輝いた。

 不思議な瞬間も待っていた。河童氏が同氏の少年時代を演じた吉岡竜輝(13)に手を取られ、降壇した。現在の河童氏を同氏の少年時代を演じた吉岡がエスコートする“珍事”。降旗監督は「現実とフィクションの河童一家に会ったな」と笑った。花束を贈った吉岡の妹役・花田優里音(9)が河童氏にキスされるのを見て再び笑顔を見せた。

 来年は80歳になる。「年齢も年齢なので健さんともう1度映画を撮りたい。来年夏ごろに撮影に入れれば」。その思いは変わらない。「今年も酔いざましの酒を飲まされた気分。来年初めからスパートしないといけないね」。映画人として来年は集大成に挑む。【森本隆】

 ◆石原裕次郎賞

 石原裕次郎さんの遺志を引き継ぎ、石原プロモーションの全面協力で日刊スポーツ映画大賞に併設。興行的にヒットした作品か、完成度が高く大作感のある娯楽作に贈られる。賞金300万円。石原裕次郎新人賞は、裕次郎さんをほうふつとさせる将来性豊かな、映画デビュー5年以内の新人に贈られる。賞金100万円。選出へのハードルは高く、過去26回で受賞者は12人だけ。

 ◆降旗康男(ふるはた・やすお)1934年(昭9)8月19日、長野県生まれ。東大卒業後、57年に東映入社。66年「非行少女ヨーコ」で監督デビュー。同年「地獄の掟に明日はない」で高倉健主演作を初監督した。以後も「新網走番外地」シリーズや「居酒屋兆治」「鉄道員(ぽっぽや)」など、高倉とのコンビ作を手掛ける。78年からフリーに。昨年、「あなたへ」で石原裕次郎賞を受賞。

 ◆「少年H」

 妹尾河童氏の自伝的小説の映画化。昭和初期の神戸。洋服の仕立てで生計を立てる父(水谷豊)と、愛情あふれる母(伊藤蘭)のもと、平凡ながら幸せに暮らすH(吉岡竜輝)ら家族が、太平洋戦争で運命をほんろうされる。仕事上、外国人との付き合いもある父はスパイ容疑をかけられ、妹(花田優里音)は疎開に出される。やがて空襲で焼け野原になった神戸で、家族は力強く再出発を誓う。