【ベルリン(ドイツ)15日=村上幸将】山田洋次監督(82)の新作「小さいおうち」が14日(日本時間15日)、最高賞を争うコンペティション部門に出品された第64回ベルリン映画祭で公式上映された。4年ぶり6回目の同映画祭参加となった山田監督は上映後、1600人で埋め尽くされた客席からの拍手に「あんなに長く、熱心な拍手は初めて。興奮した」と話した。

 山田監督は右手を額に当て客席を見渡した後、少年に帰ったような笑みを浮かべた。監督作「東京家族」が昨年、特別招待上映された際「『小さいおうち』が上映され、僕も行けることを願ってます」とメッセージを送っていた。「願いがかなっただけで、もう十分です」と言った。

 8作連続9作目の出品。同映画祭に愛された山田監督にとって、過去8作にはない戦争をテーマに盛り込んだ今作品をベルリンで上映することに意味があった。太平洋戦争時に同盟を組み、ともに敗戦国となったベルリン市民なら、戦争の悲惨さ、反戦への思いを共有できると思ったからだ。

 公式会見では戦争、国際政治に関する質問も相次いだ。安倍晋三首相の靖国神社参拝問題を日本は軽視しているのではという趣旨の質問も受けた。「残酷な戦争を2度としてはいけないという教訓を今の世代は学んでいるか、心配でならない」と作品に込めた思いを自分の言葉で述べた。

 それだけに上映後の拍手がうれしかった。「文化を通して人間同士、心を通わせるのが大事な時代。自分たちの映画を見るような(観客の)思いが伝わった」。次回作については「現代の家族の話。もうひと頑張りしなきゃという気持ち」と意欲を燃やしていた。