【ロサンゼルス2日(日本時間3日)=村上幸将、千歳香奈子通信員】米俳優ブラッド・ピット(50)が第86回米アカデミー賞で悲願の初オスカーを獲得した。プロデューサーを務めた「それでも夜は明ける」(スティーブ・マックイーン監督、7日公開)が作品賞を獲得。俳優として過去3度ノミネートされるも縁がなかったがついに大願成就。黒人初の作品賞受賞監督となった同監督と、ジーン・ハーショルト友愛賞を受賞した妻アンジェリーナ・ジョリー(38)と歓喜のキスを交わした。

 ピットは受賞が決まった途端、喜びのあまりマックイーン監督にキスした。「みなを代表してもらった。この作品に参加できてとてもうれしい。でも、これは1人の男のおかげで受賞できたのです」と監督をたたえた。監督が「すべての男と少しの女性が嫉妬すると思う」とジョークを飛ばすとピットは「言っておくけど、男とキスしたのは監督が初めてだよ」と笑った。

 95年に助演、08年と11年に2度主演と計3度ノミネートも、オスカーにたどり着けなかった。近年は「俳優業をやめプロデューサーに専念したい」と語り、11年の主演映画「マネーボール」では製作に名を連ねた。

 「それでも-」は黒人が白人に売り飛ばされ、奴隷として生きた12年をつづった実話。当初大手パラマウントが予定していた製作に難色を示し、ピット自ら動き、自身の製作会社プランBが企画製作し映画化が実現した。昨年は黒人を描いた良作が多かったが選考に相次いでもれた。「それでも-」が、奴隷制度という負の歴史を扱った作品はオスカーを取れないというジンクスと、人種の壁を越えられるかが焦点だった。

 ピットが「犯してしまった罪のためではなく、自分たちが何者かを理解するために歴史を学ぶことは大切」と訴えれば、黒人のマックイーン監督も「彼がいなければこの作品はない」と感謝する“相思相愛ぶり”が作品を1ランク上に高めた。

 “運(うん)”も味方した。ピットはレッドカーペットで「今日ここに来る前、ベッドルームで犬のうんちを片付けてきたんだ」と明かし笑わせた。人道主義的活動が評価され、妻ジョリーがアカデミー賞の1つジーン・ハーショルトを受賞すると、ピットはおでこにやさしくキスした。家族全員でオスカーをつかみ取った幸せがこぼれ落ちた。

 ◆作品賞は製作の代表者としてプロデューサーが受け取るのが原則になっている。一般的にはなじみがないため、メーンの賞にもかかわらず盛り上がりが欠けるきらいがあった。だが今年はピットはもちろん「ウルフ-」の製作に名を連ねたディカプリオ、実質的な製作者であった「キャプテン・フィリップス」のトム・ハンクスと「ゼロ・グラビティ」のジョージ・クルーニーら大物俳優プロデューサーの戦いでもあった。