27年ぶりに選抜高校野球大会に出場中の徳島県立池田高の故蔦文也監督(享年77)の孫で、映画監督の哲一朗氏(29)が、祖父の実像に迫るドキュメンタリー映画製作の佳境に入っている。「孫だけど、じいちゃんは家族に興味がなく接点がなかった。どういう人間か知りたかった」。商業映画デビュー作「祖谷物語-おくのひと-」の製作と並行し、11年正月から、水野雄仁氏ら教え子や関係者への取材を開始。筋トレを導入して「やまびこ打線」と呼ばれた打ち勝つ野球で高校野球に革命を起こしたことなどを知った。池田高は82年夏、83年春の連覇など頂点を極めた。

 ところが成功者として講演など全国を回るようになり、指導から離れる時間が増え、選手や部内と溝が出来たという。祖父を批判する文書も発見した。「有名になってから問題もあったのかも知れません。それが池田高が全国から遠ざかった主要因だったのでは」と分析する。地元では語られることのなかった“タブー”にも触れ、祖父の等身大の人間像に迫る意欲作となりそうだ。

 地元で解体業を営む楠本正志さんが12年に選手寮「ヤマト寮」を提供して以降、町が一体となった後押しで2年で全国の舞台に帰った姿を見つめた。22日の1回戦、海南戦も撮影しており、編集を残すのみ。完成時期を決めずに作り始めたが「池田が全国に出て期限が出来て良かった」と笑う。祖父の生きざまを追う姿を描いた小説「永遠の0」に自分を重ねる。「祖父も特攻隊でした。でも『永遠の0』のように、いいものに祭り上げる気はない」。映画監督のプライドをのぞかせた。【村上幸将】

 ◆蔦哲一朗(つた・てついちろう)1984年(昭59)6月29日、徳島県三好市池田町生まれ。小中高とサッカーを続け、池田高から進んだ東京工芸大の授業で映画製作に魅了され、白黒映画集団「ニコニコフィルム」結成。3年時に撮ったホラー映画「サミルガー」が評価される。卒業後、都内の名画座「早稲田松竹」で働きながら作った「夢の島」を09年にバンクーバー映画祭やイギリス・グラスゴー映画祭などに出品。