米映画界最高の栄誉とされる米アカデミー賞を選考する映画芸術科学アカデミーが28日、宮崎駿監督(73)に名誉賞を贈ることを発表した。卓越した業績を残した映画人に贈られる賞で、日本人では、90年の黒沢明監督以来2人目の快挙。授賞式は11月8日にロサンゼルスのハリウッドで行われる。

 受賞の知らせを聞いた宮崎監督は「リタイアした人間に賞なんかいらないのにと本当は思っています。でも光栄です。名誉なことだと思います」と喜びを表現した。

 世界的にも高い評価を得た数多くのアニメ映画を手掛けてきた宮崎監督は、昨年9月に「風立ちぬ」を最後に長編作品からの引退を発表した。引退後の初仕事は、東京・三鷹の森ジブリ美術館の企画展示「クルミわり人形とネズミの王さま展」の監修だった。展示が始まって3カ月が過ぎ、ひと息ついたタイミングに届いた吉報となった。

 アカデミーと縁は深い。03年「千と千尋の神隠し」で長編アニメ賞を受賞したほか、「ハウルの動く城」「風立ちぬ」も同賞候補になった。今年6月、アカデミー賞選出の投票権を持つ新規会員候補の中にも宮崎監督の名前があった。

 アカデミーは、宮崎監督について、「もののけ姫」で世界的に有名になる前から「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」などの作品が日本で絶大な支持を受けていたとして、長年の功績をたたえた。宮崎作品は、米国のアニメ映画界にも多大な影響を与えており、多くの監督やプロデューサーが宮崎監督に対する尊敬の気持ちを公言している。宮崎監督は、02年のベルリン映画祭で「千と千尋の神隠し」が最高賞の金熊賞を受賞、05年のベネチア映画祭でも栄誉金獅子賞を受賞したが「僕の仕事の延長に金の熊やベネチアのライオンがいるとは思わなかった」と賞にこだわらない姿勢を強調してきた。貫いてきたのは「この世は生きるに値するということを伝えるのが、仕事の根幹にならないといけない」という思い。国籍や言葉、年齢を超えて、その思いが世界中のファンを魅了してきた。

 これまでアカデミー賞の授賞式に出席したことはないが、今回の受賞を受けて「アメリカにもらいに行かねばなりません。(スタジオジブリのプロデューサーの)鈴木(敏夫)さんと(親交の深い米アニメ監督のジョン・)ラセター氏が怖いので、行ってまいります」とコメントを発表。授賞式出席を約束した。通常の授賞式と別に行われるが、宮崎監督にとって初のアカデミー賞の舞台となる。

 ◆宮崎駿(みやざき・はやお)本名同じ。1941年(昭16)1月5日、東京都生まれ。学習院大卒業後の63年に東映動画に入社、アニメーターとして活躍。71年退社。79年「ルパン三世

 ~カリオストロの城~」で初監督。84年「風の谷のナウシカ」で注目され、「となりのトトロ」「魔女の宅急便」「紅の豚」「もののけ姫」などヒット作連発。97年「もののけ姫」は日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞受賞。01年「千と千尋の神隠し」は興行収入304億円で、日本映画歴代1位。

 ◆アカデミー名誉賞

 第1回(1928年)から創設され、映画界で卓越した業績を残した映画人に贈られる。名称が「特別賞」だった期間もある。第1回はチャールズ・チャプリン、第5回はウォルト・ディズニーが受賞。監督ではイタリアのフェデリコ・フェリーニ、スイスのジャン・リュック・ゴダール、俳優ではゲーリー・クーパー、ソフィア・ローレン、ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードらが受賞。外国語映画賞創設前、外国語映画に「名誉賞」を贈った期間もあり、黒沢明監督「羅生門」や衣笠貞之助監督「地獄門」が受賞。賞金はなくオスカー像が贈られる。