【モントリオール(カナダ)29日(日本時間30日)=村上幸将】モントリオール世界映画祭コンペティション部門に出品された吉永小百合(69)初プロデュース作品「ふしぎな岬の物語」(成島出監督、10月11日公開)の公式会見と上映が行われた。吉永は流ちょうなフランス語であいさつ。この日のため語学学校に通うなどして準備し、観客、関係者をうならせる出来だった。

 吉永の瞳が、何度も潤んだ。オープン101年のインペリアルシネマには開演2時間前から行列ができ、1000席は満席となった。その中、登壇した吉永がフランス語であいさつを始めた。「Mesdames

 et

 Messieurs,bonjour,Je

 m’appelle

 Sayuri

 Yoshinaga.(こんにちは、吉永小百合です。モントリオールへ私自身、大変敬意を抱いています)」

 公式上映前の1分30秒、何も見ないでスピーチで、母国語のように繰り出す言葉の数々…聞き入ったモントリオール市民から、拍手喝采を浴びた。吉永の誠意が伝わった瞬間だった。

 7月16日の完成報告会見で、フランス語圏のモントリオール行きを前に、吉永は「しっかりアピールできるように今からトレーニングしたい」と宣言。その後、語学学校に通って勉強していた。現地入り後も、映画祭の通訳を26年務める角田実氏に学び、あいさつ文で「国際映画祭」としていた部分を「世界映画祭」と正式名称に直し、発音の練習を重ねた。役作り同様、妥協のない姿勢を貫き、会見でも30秒スピーチ。同氏も「完璧」と絶賛した。

 上映後には、映画女優55年で初の観客との質疑応答も実現した。最高賞を争うコンペティション部門出品作では、質疑応答は行わないのが通例だが、吉永と東映側が「観客の声をじかに聞きたい」と訴え、映画祭側も熱意に応じた。さらに創設者で選定ディレクターのセルジュ・ロジーク氏の提案で、開閉会式でしか行わないレッドカーペットも急きょ開催。9月1日の追加上映も決まるなど、ムードは高まっている。

 質疑応答後、吉永は「どんな質問が来るかとハラハラドキドキしていましたが、とても温かく受け止めて下さった。上映中も反応が良くて阿部さんと大喜びでした」。その上で「モントリオールに出品できたら、どんなにいいだろうと思いながら作りました。望み、作りたかった映画と一致した温かい街。うかがえてとても良かった」と感激の言葉をかみしめていた。

 ◆「ふしぎな岬の物語」

 岬村の先端にある岬カフェの店長柏木悦子(吉永)は、1杯のコーヒーで村人に幸せを届けていた。30年来の常連タニさん(笑福亭鶴瓶)に思いを寄せられ、おいの浩司(阿部寛)に思慕の念を抱かれた。常連の漁師、徳さん(笹野高史)の元に家を出た娘みどり(竹内結子)が戻ると、反発し合う父娘を支えた。その中、タニさんの転勤、徳さんの病などが相次ぎ、悦子は寂しさを覚える。

 ◆モントリオール世界映画祭

 77年から開催。北米最大級の映画祭で、日本映画の受賞は、83年「未完の対局」(佐藤純弥監督)、06年「長い散歩」(奥田瑛二監督)、08年「おくりびと」(滝田洋二郎監督)が最優秀作品賞。97年「東京夜曲」の市川準監督、09年「ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~」の根岸吉太郎監督が最優秀監督賞。高倉健が99年「鉄道員(ぽっぽや)」で最優秀主演男優賞、田中裕子が83年「天城越え」、深津絵里が10年「悪人」で最優秀主演女優賞。