【モントリオール(カナダ)8月30日(日本時間31日)=村上幸将】女優吉永小百合(69)が、初プロデュース映画「ふしぎな岬の物語」(成島出監督、10月11日公開)のモントリオール世界映画祭公式上映から一夜明け、取材に応じた。吉永は、26日に腹部大動脈瘤(りゅう)破裂で急逝し、同作が遺作となった俳優米倉斉加年(よねくら・まさかね)さん(享年80)への思いを語り、涙した。

 米倉さんは医師を演じた。公式上映では、血液検査の際に注射をし損ね、笹野高史演じる漁師を痛がらせる場面で笑いが起きた。吉永演じる主人公悦子の体調を気遣い、ビタミン剤を勧める場面もある。

 吉永

 笹野さんがご病気になる役で、米倉さんが医師で『病院行かなきゃダメだ』と(言う場面が現実と)逆のシチュエーションみたいな役。(撮影で)久しぶりに会って、一段とお元気で恰幅(かっぷく)良くなられたと思っていました。知らせを聞き、残念でたまりませんでした。

 吉永は、55年の映画女優人生で転機となった80年「動乱」で米倉さんと共演した。「私が映画を本当にもう1回やってみようと思った映画。映画でご一緒するのは、その時以来。懐かしい思い出をずいぶんお話ししました」。話すうちに声は詰まり、目が潤んだ。

 「動乱」のプロデューサーでもあった東映の岡田裕介会長は「米倉さんは『ふしぎな岬-』の話を快く引き受けてくれた。『何でもいい。出るよ』と言ってくれた」と明かした。米倉さんも、吉永の初プロデュース映画への出演を楽しみにしていたという。

 9月1日(日本時間2日)の授賞式を前に観客の反応は上々で、現地メディアも注目作に挙げている。その評価の一端を、米倉さん最後の演技が支えている。吉永は「(死は)本当にこんなに早くて残念ですけども、きっと私たちのこれからの仕事を見守って下さると思っています」と言い、涙を手でぬぐった。