第2次世界大戦中、ユダヤ系難民約6000人に日本へのビザを発給して命を救った実在の外交官を描く映画「杉原千畝(ちうね)」(チェリン・グラック監督、来年秋公開)のロケ撮影がポーランドで行われている。主演の唐沢寿明(51)は「戦争を知らない世代だからこそ精いっぱい演じる」と強い決意を胸に撮影現場に立っている。9月から始まったロケは11月初旬まで続く。

 厳しい冬が近づくポーランドに、唐沢はこもりきりだった。敏腕外交官になりきるため、9月のクランクインから1度も帰国していない。グラック監督の細部へのこだわりから、撮影は連日、深夜に及ぶ。報道陣に公開された舞踏会のシーンも、午前2時半にようやく終わった。唐沢は、4時間を超えるリハーサルの途中、「まだ1シーンも撮ってないんだよ」と言って苦笑いした。

 リトアニアの日本総領事館で、ナチス・ドイツの迫害から逃れてきたユダヤ系難民に、ビザを発給し続けた杉原氏を演じる。政府の意に反した、我が身を顧みぬ人道的活動で、6000人の命を救ったと言われ、ユダヤ社会では誰もが知る。「日本人はすばらしい民族だと自信を持って演じたい」と使命感を強調した。

 妻役の小雪(37)との息はぴったりだ。00年ドラマ「ラブコンプレックス」の共演以来、公私で付き合いがある。第2子出産後、映画初出演となる小雪に撮影開始前「大丈夫?

 ポーランドに来られる?」と気づかうなど、実の夫婦のような距離感だ。小雪も「親近感があってやりやすい。ストイックさといいかげんさの間にいる人」と笑った。

 ワルシャワ、ウッジなどロケは全てポーランド国内。東京・日比谷公園で妻とデートする場面も、ポーランド国内の公園をアレンジして撮影した。飯沼伸之プロデューサーは「ポーランドは映画国家として力を入れている。機材も人材も調達しやすい」。スタッフ約120人のうち、ポーランド人は約100人。唐沢は「ポーランド人は日本人と似て辛抱強い。撮影が長引いても文句一つ言わない」と驚いていた。

 日本育ちで、09年「サイドウェイズ」などを手掛けたグラック監督がメガホンをとる。同作のファンだった唐沢にとって念願のタッグだ。手を尽くして同監督の電話番号を調べ上げ、数年前に「大作でなくてもいいので出させてほしい」と直訴。海を超えた思いが今回の主演につながった。

 飯沼プロデューサーは「ポーランドはもちろんリトアニアでも公開したい」。日本の偉人伝を世界に伝えることを目指している。【森本隆】

 ◆映画「杉原千畝」

 20世紀半ば、世界を渡り歩いた実在の外交官杉原千畝氏の人生を実話をもとに描く。語学に堪能だった杉原氏は、夢だったロシア入国を拒否され、ナチス・ドイツによるユダヤ系民族の迫害が横行する中、リトアニアの日本総領事館で難民たちにビザを発給し続けた。共演は浜田岳、塚本高史、滝藤賢一、小日向文世ら。ポーランドのトップ女優アグニシュカ・グロコウスカも出演。