乃木坂46と欅坂46の「坂道シリーズ」を担当する文化社会部横山慧記者が、グループの最新の出来事について、コラムで解説していきます。

 乃木坂46寺田蘭世(18)の熱いスピーチが、グループの歴史に刻まれた。9日、東京・日本武道館で行われた乃木坂46のクリスマスライブ「Merry Xmas Show 2016」。10日に3期生のあいさつイベント「お見立て会」を残してはいるが、6日から4日間行われたライブは、この日でラストだった。

 アンコール2曲目の「ロマンティックいか焼き」を終えると、寺田が「ここからは、ちょっと寺田モードになってしまうんですけど…」と控えめに話し出した。スピーチの全文は以下の通り。

 「まず、千秋楽を、みんな全員16人無事に終えられたことは、本当に、当たり前のことでなく…。それでなおかつ、ファンの方々も、楽しかったですか? (歓声が起こる) こういうことは、いろんな奇跡が重なってこそのことだと思います。本当に、ありがとうございます。

 そうですね…。振り返ると、今回16枚シングルということで、アンダー楽曲「ブランコ」は、このメンバー全員で歌っている楽曲でして。「ブランコ」のミュージックビデオ、みなさんも見てくださいました? (歓声が起こる) ちょっとドラゴンと戦ったりしていて、トレジャーハンターっていうのが1つのテーマだったんです。

 そうですね…。私は、今までで史上最弱のアンダーのセンターなんじゃないかなって思うんですけど…。(客席から、そんなことないよ~! という声) いや、そこははっきりそう認めたいです。そうですね。そうだなって思っていて。でも、ミュージックビデオでも、私だけ武器を持っていなくて、1人だけ水筒っていう。そうですね、そんな最弱だった子が、武道館。こんな夢の、日本武道館でセンターに立たせてもらって。

 トレジャーハンターのイメージって、やたらでこぼこ道を歩きたがるし、歩き出しはいつもひとりぼっちなんですよ。でもその中で、新しい仲間を見つけたりして、歩いていくし、その中でいろんな経験を得て、なんだろうな、新しい武器を、強い武器を身につけたりして、いつかはドラゴンっていうすごい強いものを倒すっていうのが、トレジャーハンターのそういうゲームのアレじゃないですか。『ゲームだからそれは成り立っているんだよ』って言う方もいると思うし、『そんな夢物語絶対あり得ない』って言う方のほうが多いと思うんですよ。

 私にたとえると、ずっと『センターになりたいです』って言わせてもらっているけど、『お前には絶対できない』って言う人もいると思うんですよ。(再び、そんなことないよ~! という声) だけど、私は、それを絶対にかなえたいなって思っていて、ここは夢の通過点だと思っています。(大歓声が起こる) そして、ここにいるメンバー16人きっといろんな思いがあると思うんですけど、みんなもきっとまだまだ夢の途中だと思っています。だからみんなで頑張っていきたいなって思っているし、なんだろな…。

 何言ったって、いろいろどうこう言われるし、言われるお仕事なので、仕方ないなって思っているんですけど。こんなたとえ方して伝わるか分からないですけど、1+1が2なんて誰が決めたんだ、って話なんですよ!(おおお~っ!? と驚きの歓声) 私、ただのバカです。数学ができないバカです。だけど、そういうことじゃないんです。人生はそういうもので計ってほしくないんです!(大歓声があがり、拍手もわき起こる) だから私は、1+1は、100にしたいと思います!

 この後の曲も、そうですね…。ここいる、そうですね、1人1人、十人十色だと思いますので、それぞれ悔いなく、楽しんでいただければなと思っています。ということで、メンバーは次の曲の準備をお願いします。

 (川村真洋から「いい話だったよ」と言われる)

 ありがとうございます。私だけじゃなくて、みんなで最強なんです。16枚目のアンダーメンバーが、最強なんです! みんなが大好き。ここにいるファンのみなさんも、スタッフさんも、テレビの前で見ているみなさんも、みんな大好きです!」

 約4分間のスピーチで、1万2000人で埋まった会場全体の心をつかんだ。「人生はそういうもので計ってほしくないんです!」と訴えた時の表情は、怖いくらい力が入っていた。乃木坂46のライブでは、歓声は頻繁にあがるが、こういった形で拍手が起こるのは珍しかった。

 寺田は、自分から能動的に「物語を作りにいける」タイプのメンバーだ。2期生として加入した当初から「センターになりたい」と公言してきた。普段から控えめな言動で、「不言実行」で、結果が出た後に過去をさかのぼって初めてサクセスストーリーが完成するタイプのメンバーが多い乃木坂46の中では、珍しい存在だ。

 ただ、人気上位メンバーたちの壁は厚く、センターどころか、シングル表題曲を歌う選抜メンバーにも入れず、アンダーメンバーとして活動する日々が続いた。「センターになりたい」という信念は曲げなかったが、ネガティブな発言や、後ろ向きな態度も見せた。

 だが、今年に入って、環境も少しずつ変わってきた。ファンに正面から向き合う誠実な態度で、握手会の売り上げが目に見えて増えてきた。8月発売の「裸足でSummer」では、アンダーメンバー曲「シークレットグラフィティー」で、初めて最前列のフロントメンバーにも選ばれ、さらに自信をつけていった。

 危機感もあった。9月、初めての後輩であり、ライバルにもなる3期生12人が、乃木坂46に加入した。5万人弱の応募総数から選ばれた精鋭たちだ。今後、選抜入り争いはより一層激しくなるだろう。関係者も「3期生のことを一番意識しているのは、間違いなく2期生たちでしょう」と話す。だからこそ、黙っていられなかった。

 寺田のスピーチは、寺田自身や、メンバーたちのモチベーションを上げただけでなく、ファンの心にも火をつけたことだろう。まだ18歳。伸びしろは十分だ。スピーチの中に「そうですね…」という前置きが多かったのは、ご愛嬌(あいきょう)。新しい物語が、寺田の口から幕を開ける。【横山慧】