<フィッシング・ルポ>

 サッカーW杯の行われたブラジルといえば、釣り人にとっては大魚の国だ。世界中の川や湖の淡水の5分の1を占めるアマゾン川だけでなく、南部の広大な湿原パンタナルにも、多種多様な大物が潜んでいる。日本代表も試合を行ったマトグロッソ州クイアバから車で南に約100キロ。本紙社会面の事件記者、清水優がパンタナルの玄関口の町、バロン・ジ・メウガッソのクイアバ川に向かい、おなじみのピラニアや、50センチ級がごろごろいるというパクーの釣りに挑戦した。

 黄土色の水面を船外機付きアルミボートで疾走すること約20分。釣り場に着くと、ガイドのジュニオールさん(31)から、空のペットボトルとバケツを渡された。ペットボトルには、ギターの弦より太い40~50号くらいのナイロンラインが巻き付けてある。

 ラインの先の大きなハリに、バケツの中でのたくっている熱帯魚「トゥビラ」をつけたら準備完了。サオは使わない手釣りで「魚ごと振り回して、川に放り込め」という。

 日本の川釣りは、足音にまで気をつけたり、結構繊細だ。だが、ここはブラジル。赤土の岸から、トゥビラをつけたラインを右手で振り回し、斜め前方に豪快に放り投げる。ドボーン。ど派手な着水音も、魚は気にしないようだ。ラインを張り、下流に流れるエサからのアタリを右手人さし指にラインを乗せて待つ。ブルブルッ。流すたびに指に感触がある。

 「魚が引いたら、ラインを引け」。しかし、何度やってもエサがかみ切られ、頭しか残っていない。切り口は、指なんかかまれたらひとたまりもなさそうな鋭さだ。

 最後のエサはハリを深くのませて、ハリ先を腹から出した。ドボーン。ブルブル…、グッグッ。下流へ持っていこうとする初めての引き。ひったくるように合わせると、ラインがグイ~ンと伸びる手応えがあり、下流へ向かって魚が走る感触が続いた。

 思ったより引きが強い。体重95キロのこっちも力では負けない。ピンと張ったナイロンラインが風を切り、ビョウビョウと音を立てる。ようやく岸に寄ってきたのは、薄い金色に光る尺(30センチ超)ピラニアだった。

 ラインが食い込んだ指からは血が出ていた。ジュニオールさんは、その手を握り「ようこそパンタナルへ」と笑った。パンタナルでは2メートル近い大ナマズ「ピンタード」(昨年末から禁漁)なども、この「リーニャーダ(ライン釣り)」という方法で釣る。「手が血だらけになって初めて、一人前の釣り師」なのだという。極太ラインを使った大型魚との1対1の綱引き。いつか、そんな釣りもやってみたいものだ。

 サオを使った釣りでは、さらに大きい「パクー」を釣った。エサは発酵させたコーン「モーリョ・アゼード」だ。これをハリにセットして、15メートル先に投げ込む。下流へ5~10メートルほど流したら、また上流へ投げる。

 コーンがエサというのは意外だが、パクーの仲間は雑食で、木の実などを強いアゴでガリガリ割って、中身を食べるのだという。アタリはコツコツと繊細だが、ヒットしてからの引きはかなり強い。40センチのパクーがハリ掛かりした時は、リールがギィギィと音を鳴らして逆回転し、釣り上げるまで数分間やりとりした。

 こちらも、ラインを放り投げる「リーニャーダ」で釣ることができる。ガイドの義父のルイスさんは、ラインを竹ザオの穂先につなげてアタリを取っていた。サオで合わせてハリを掛けたら、手でラインをたぐり、釣り上げる。パクーは50センチオーバークラスもいる。【清水優】<ブラジルの釣り事情>

 ブラジルではアマゾン流域やパンタナルが、主な釣り場になる。クイアバでの釣りはボート、1日の食費を含め、料金は1人500レアル(約2万4000円)くらいから。ボートに乗る客数が少なければ、割高になる。ボート釣りには、事前申し込みのライセンスが必要で、ライセンスなしの場合、岸から狙う。

 獲物は2メートルになる「ピンタード」や、金色に輝く野太いサケ「ドラド」が人気。パンタナルのクイアバ川、パラグアイ川などでは、ピンタードとドラドの数が減り、昨年末に禁漁になった。脂がのったもっちりした白身の「パクー」、バスに似た「トクナレ」も美味で知られる人気魚。