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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」

純愛か緻密な計算か…“有栖川”晴美の公判

 先日、東京地裁でビデオ上映会があったんです。法務省作成の「裁判員制度」って作品と最高裁作成の「評議」って作品を、法廷で上映したんですよ。オレは以前「裁判員制度」は見たことがあったんで「評議」を見に行ったんだけど、上映される法廷に入ると観客はオレ1人。なんなの? この人気のなさは。ビデオプロジェクター操作をする職員と2人きりで鑑賞だから、気まずいったらありゃしない。

 それにしても、みんな興味がないのか他の機会に見ているから来ないのか…。オレが行かなかったら上映中止になってたのかな。

北野
2002年、コンテストにゲストで招かれた時の北野ら

 今回はこのコーナーで2回取り上げてるニセ有栖川宮の話。(第1回)(第19回)

 5月15日に行われた公判で、20分程度の証拠整理をして審理はすべて終了。あとは、6月7日の求刑、7月7日の弁論、期日未定の判決の3公判を残すのみ。04年2月20日が初公判だから、結構長かったなぁ。

 この裁判は、被告人のキャラクターが濃いことと、事件の珍しさにひかれて、かなりの回数を傍聴してきたんだけど、今回は2月13日に行われた坂本晴美被告人最後の被告人質問の傍聴記。

 開始予定より10分ほど遅刻して、坂本晴美被告人の弁護人が入ってきて公判スタート。

 裁判官 「あの~弁護人! 今日も10分近く遅れてますので…。時間は決められてるのでお願いしますね」

 と、弁護人が注意されてからの開始です。いつも遅刻してくるんだけど、やる気があるのかないのか…。

 この公判では検察官からの被告人質問です。

 検察官 「(銀行)口座のことをお聞きします。UFJ、みずほ、りそな等、多くの銀行で『有栖川晴美』名義の口座をつくってますよね? どうやってつくったんですか?」
 被告人 「(自分達でつくった)有栖川記念の名簿がございますので、そちらを窓口の方に提出してつくりました」
 検察官 「でも、本名は坂本晴美でしょ。通称で口座をつくるというのは、タレントの人が芸名で口座をつくるようなもんですよね?」
 被告人 「別に、私は芸能活動するつもりはありませんので…」
 検察官 「そういうことを聞いてる訳じゃないんですけど」

 芸能活動する気がないのは分かったけど、本名以外で口座をつくれるものなのね。しかも「有栖川」と名乗る人と結婚も入籍もしてないのに。

 検察官 「あと、招待状なんですが、何通くらい出したんですか?」
 被告人 「正確には覚えていませんが、2400通くらいだったと思います」
 検察官 「返送されてきたのは何通ですか?」
 被告人 「50…いや、100通くらいだったかと」
 検察官 「そのうち『出席しません』というハガキはどれくらいでしたか?」
 被告人 「正確に何通というのは覚えてはいないんですが、全体の32%が返事が返ってきたんです。それで14%だったか15%が『出席させていただきます』というハガキでした」

 正確な数を覚えてないのは理解できるけど、パーセンテージは細かく覚えてるって、ヘンな話だよなぁ。大体、披露宴に参加した人が400人近いって言われてるんだから、被告人の言うことがホントなら、招待状なしで参加した人ってどれだけいたんだろうか。

 被告人が一貫して容疑を否認してる大きな理由の1つに、披露宴の前日まで『自称有栖川宮』である北野被告人の本名を知らなかったというのがあるんです。そのことについて検察官は質問します。

 検察官 「結婚しようという相手の本名を知らないなんてことあり得るんですか?」
 被告人 「私は戸籍上の本名に興味はありませんので」
 検察官 「興味がない(笑)。え~、年齢とかも聞いてなかったんですか?」
 被告人 「以前、パーティーの席で丑年とだけ聞いてましたので、計算して分かりました」

 オレが未婚だから理解できないのかな。相手の名前や年齢くらい知りたいと思うんだけど。

 検察官 「北野被告人のどこにホレたんですか?」
 被告人 「(テレ笑い)え~、以前も申した通り、ひ・と・め・ぼ・れですから。あの~、愛っていうのは育んでいくものなんですね。その点、恋は時間かかりません。一瞬ですから。恋に落ちるとはよく言ったもので、恋は落ちるもの、愛は育てるものなんです」
 検察官 「…え~、外見にひかれた、と?」
 被告人 「外見は大好きです。殿下(北野被告人)は、私の好きな男性のタイプの1つですから」
 検察官 「顔立ちにホレたということですか?」
 被告人 「身長ですね。背の低い人はコンプレックス持ってますから、どんなにカッコ良くても、お金持っててもダメなんですね」
 検察官 「身長ですかぁ…。あなたは北野被告人のことを『雅(みやび)』と呼ぶにふさわしいと答えてますが、どこが雅(みやび)なんですか?」
 被告人 「顔!」
 検察官 「他にあります?」
 被告人 「まゆが細い。殿下は体毛が薄い人ですね。昔の皇族の方々は、体毛の濃い人は少なかったと聞いてますから。あと、鼻が極端に高くないとか、唇の形? 上唇が細く、下唇の方がふっくらしてて…。もう源氏物語から飛び出してきたような方ですよね」

 目がハートマークになってんじゃないかってくらい、喜々として答えてました。まるで少女のようですよ。

 そして、検察官の最後の質問です。これがこの裁判に対する坂本被告人の立場がはっきりと分かるやり取りになりました。

 検察官 「最後にこれからも『有栖川』の名前を使いますか?」
 被告人 「はい、使います!」

 大きな声でハッキリと答えてました。これって「再犯します」って宣言してるようなものでしょう。普通に考えれば「全く反省していない」「再犯の恐れが強い」という検察側の主張を裏付けるものとなり、被告人にとっては致命的なものになります。再犯を明言している被告人に対して、裁判官は情状を酌量することなどできないですから。被告人は全く反省がないと考えている検察官にすれば(よくぞ言ってくれた)と思ったでしょうね。

坂本晴美
法廷での坂本晴美被告(スケッチ:阿曽山大噴火)

 しかし、どうして、坂本被告人はこんなことを言ったのでしょうか。ただのおバカ? それとも恋に落ちて冷静な判断力を失った?

 正解は本人のみぞ知る、でしょうかね。ですから、ここから先はオレの推測です。目がハートマークになっている少女のような証言は、ひょっとしたら、ち密な計算の上に成り立っているのかもしれません。

 そもそも坂本被告人は有栖川宮を名乗っていた北野被告人と知り合って「恋に落ちた」と言ってるわけです。つまり「私も知らなかった→ひ・と・め・ぼ・れ…した人と結婚したかっただけ→だから無罪」という論法です。裁判の過程で相手の本名が「北野」と判明し、有栖川宮家と何も関係ないことが判明しても「殿下は体毛が薄い人ですね。昔の皇族の方々は、体毛の濃い人は少なかったと聞いてますから」などと何かと北野被告人と皇族を結びつけ、言外に(誰が何と言っても彼は有栖川宮の人間に違いない→私は今でもそう信じている→私が今でも騙されているのを裁判官さん、分かってね)と言ってるようでもあります。

 その論旨を最後まで押し通すのであれば、検察官の「これからも『有栖川』の名前を使いますか?」の質問に対して、当然「YES」になります。仮に「もう使いません」と言えば「罪を犯した認識がある」と認められ、それまでの「私は今でも騙されているの」という有形無形の主張が根底から崩れてしまいますから。

 そんなことをするより、逮捕された時点で「私も北野に騙された」と言ってすべての責任を押し付けた方がいいじゃないか、という考えもあるでしょう。確かにそうです。これもまったくの想像ですが、それをした場合、「そういう判断力があるのなら、披露宴を開く前にニセ宮家であることが、分からなかった訳ないでしょ?」という論法に対して有効な反論ができないという計算があったのかもしれません。あくまでも想像です。

 今でも北野被告人に騙されている、一途で可愛い女を演じ続け、結果として自らの無罪の論理構成を破たんさせずにいる自称有栖川晴美。ひょっとしたら、ものすごく頭がいいのかもしれません。いや、それとも人知の及ばないレベルの純愛カップルなのか…。

 この塀の中の“純愛”カップルに裁判所がどんな判断を下すのか興味津々です。

 【有栖川宮を語った詐欺事件の概要】 「有栖川識仁」(ありすがわ・さとひと)を自称した無職北野康行(41)と無職坂本晴美(45)は、大正時代に断絶した皇族「有栖川宮」を名乗って03年4月に都内で結婚披露宴を開き、祝儀約1300万円などをだまし取ったとして、同年10月21日、警視庁公安部に、詐欺容疑で逮捕された。
 披露宴は03年4月6日、都内で開かれた。約2000人に招待状が送付され、俳優の石田純一さん、タレントのエスパー伊東さんら約400人が出席した。


阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)

阿曽山大噴火・写真

 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。

 パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。



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