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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
遺骨を盗んだ男に下った天罰は…
先週の水曜日、10月11日。東京地裁で裁判員制度用のモデル法廷が一般公開されたんですよ。6カ月に1回のペースでやってるんだけどね。その時に「裁判員制度を考える」ってテーマで募集していた懸賞エッセーの優秀作品の発表があったんですよ。すべて読ませてもらったけど、みんないろいろ考えてるんだなぁ。小学生の部の作品なんか、大人の手が加えられたとしか思えないくらい、立派な文章だからね。機会があったら読んだ方がいいですよ。
さて、今回は10月12日に行われた吉田晶彦被告人の初公判で、罪名は遺骨領得・恐喝未遂。
06年5月、東京都豊島区の自営業吉田晶彦(当時63)は港区内の寺の墓地から会社役員の女性(当時61)の夫の遺骨を骨つぼごと盗んだ。その後、女性に27回にわたって電話し「3000万円でいい。古い札で準備しろ」などと要求した。吉田は8月10日、現金の受け渡し場所にバイクで現れ、現行犯逮捕された。骨つぼは池袋のコインロッカー内から発見された。
変わった事件だよなぁ。それより“遺骨領得”なんて罪名があるのね。この手の事件を見越して作られたルールなのかね。一応、刑法見たんだけど、ちゃんと載ってました。
刑法 第191条 墳墓発掘死体損壊等 墳墓発掘の罪を犯して、死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
長いこと裁判傍聴してきたけれど、この罪名は初めて見たよ。それだけ珍しい事件ってことでしょうね。
検察官によると、被告人は5月7日に被害女性のお墓から骨つぼを盗み、次の日、“山下”という偽名を名乗り「1カ月が限度だ」「5000万円でどうですか?」等々、とばしケータイ(他人、架空名義)を使って、脅迫電話をした。その際、ボイスチェンジャーを使用し、音声を変えていた(ちなみに被害女性は「音声を変えていたのでよく聞き取れなかった」と言っている)。
被告人は取調べで、会社の経営が傾いてお金が必要だったこと、ダイエー(当時)ホークス王監督の夫人の遺骨が盗まれた事件を知ったのがきっかけと供述したらしい。被害女性に狙いをつけた理由としては、被告人がお墓参りに来ると、いつも花が手向けられている立派なお墓だったから、とのこと。
たぶん、お墓参りの時に被告人と被害女性は顔合わせたことあるって程度の関係なんじゃないのかな? なのに、ボイスチェンジャーまで使うという用心深さ。
裁判は、被告人の奥さんとお兄さんが証人として出廷。2人とも「なぜこんなことをしたのか…」と、いまだに信じられない様子でした。確かに、被告人は前科はなく、ホントに気の弱そうなおじさんだからねぇ。で、被告人のお兄さんの証人尋問で気になったことを。
弁護人 「被告人は現在無職ということで、あなたが被害女性への示談金を用意したんですね」
お兄さん 「はい、そうです」
弁護人 「でも、被害女性にまだお金を受け取ってもらえてませんね」
お兄さん 「それが“示談金を払う余裕があるなら、その金を被告人に渡してあげて”と言っていただいて…」
亡き夫の遺骨が無事戻ってきたということで、オールOKなんだろうね。被告人の経済状態を気にかける被害女性の心の広さに驚きです。そして、注目の被告人質問。
弁護人 「こんなことをして今から思うとどうですか?」
被告人 「恥ずかしいと思っています」
弁護人 「5月から8月までの間、なぜ、歯止めがきかなかったんですか?」
被告人 「会社を救いたい一心で」
弁護人 「そりゃあ、会社を守りたいさ。人様に悲しみを与えて作るお金! そこまでして、会社を守りたかったのかい?」
被告人 「頭がどうかしてたんじゃないかと思うんです」
弁護人 「王監督が遺骨を盗まれるニュースを見て教訓を学んだって言うけど、悪い方に学んじゃったねぇ」
被告人 「深く反省しております。心よりお詫び申し上げます」
弁護人 「もし、自分が遺骨盗まれたとしたらって思いました?」
被告人 「思いましたが…」
弁護人 「え? 思ってたの? お金を取ることで頭の中、いっぱいいっぱいだったんじゃないの?」
被告人 「そうです」
弁護人 「いやいや、どっちです?」
被告人 「あ、お金のことでいっぱいいっぱいで」
弁護人は嫌がらせでやったつもりはまったくないと主張したいようです。
弁護人 「遺骨はどうしようと思っていたんです?」
被告人 「最終的にはお返しするつもりだったので、私の母の遺骨の隣に置いて、丁寧に扱ってました」
やったことは悪いんだけど、人は良さそうなんだよな、この被告人。でも、母親はきっと草葉の陰で泣いてるよ。盗んだ遺骨を隣に置かれて。
次は検察官からの質問。
検察官 「丁寧に扱ったって言ってるのに、なんでコインロッカーに入れたの?」
被告人 「最初は私の事務所に置いてたんですが、被害女性にコインロッカーの鍵を渡してお返ししようと思いまして…」
検察官 「借金はいくらくらいあるの?」
被告人 「1700万円です。個人の債務が200万円くらいで、残りは会社の借金です」
検察官 「で、あなたはいくら脅しとろうと思って、遺骨盗んだんですか?」
被告人 「いくらとは決めておりませんでしたから。被害女性から“3000万円”と言っていただきまして」
なんか計画的なんだけど、ところどころ抜けてるんだよねぇ。身代金の金額も受け渡しもそうだけど、コインロッカーの鍵はどうやって渡すつもりだったんだろうか。そもそもこの種の犯行をやるなら、短期決戦でやらないと、時間をかければ証拠ばかり残して成功率はどんどん下がると思うよ。いや、成功しない方がいいのは当然だけど。
今回の事件や銀座にニセ金庫を置いた事件は、いずれも中小企業の経営者かそれに準ずる人が将来に不安を感じて犯行に至ったわけだけど、会社が傾いて借金が増えるのが、そんなに怖いのかな? オレもサラリーマンをやってコツコツと働いていたら、そう考えるようになるのかな。少なくとも刑務所に入るよりは、無一文になる方がまだマシだと思うけどなあ。
検察官は、亡き夫の墓参りを毎週していた女性を狙った計画的で悪質な犯行であるとし、懲役2年を求刑。
弁護人は、脅迫電話の録音記録(被害女性が録音していた)を見ると、被告人が「(骨つぼの受け渡しは)今日はやめときましょう」と言うと、被害女性は「もうすぐお盆なのに、どうするのよ」と被害者にせかされている面白い姿も見られると主張。初犯であることも考慮し、執行猶予の判決をお願いしてました。
これって、お金目当ての誘拐事件と構図は一緒なんだよな。被告人としては、骨だから罪の意識が低かったんじゃないのかな。
で、被告人が頭に湿布貼ってケガしてたのが気になったんだけど、奥さんの母親に保釈金払ってもらって保釈となった3日後に、骨折して入院したんだとさ。バチが当たったんだろうな。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。
パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。