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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
裁判所が知らなかった?法律で有罪だって
先週は、朝日放送の特番「裁判ざんまい」の収録に行ってきたんだけど、そのスタジオがすごい。なんと、法廷のセットが常設。法廷専用のスタジオですよ。需要あるのかね。さらにすごいのが、楽屋に行くまでに取調室とか面会の部屋とか通っていくつくりになってんだよね。このスタジオだけで法廷モノの2時間ドラマが撮れそうな感じ。裁判員制度のスタートが近づいてきて、裁判に関心が高まっているとはいえ、こんなスタジオがあるとは知らなかったよ。
今回は1月16日に行われた庄野勝吉被告人・村田吉夫被告人の裁判の話。罪名は貨幣損傷等取締法違反。
大阪市のマジックバー経営庄野勝吉と旋盤工村田吉夫がマジック用のコインを作るために本物の硬貨に穴をあけるなどしたとして、警視庁保安課に逮捕された。この貨幣損傷等取締法と言うのは、昭和22年に出来て、昭和62年に改正されたんだけど、改正されてから初の裁判なんです(逮捕はあるらしい)。これは珍しい裁判なわけ。被告人の名前や住所などを確認する人定質問を終えると、裁判官が、
裁判官 「今から検察官が起訴状を読み上げますので。珍しい事案ですけども…」
と、裁判官が認めるほどの、レアな裁判がスタート。
起訴状によると、村田被告人宅で50円玉176枚、10円玉39枚、100円玉39枚を削り、庄野被告人が自分のマジックバーで販売していたということらしい。そして、検察官が起訴状の最後に、
検察官 「罪名、貨幣損傷等取締法違反第1項、第2項…」
裁判官 「あれ? これは第1項とかじゃないですよね。①、②となってますよねぇ」
検察官 「えーと、ちょっと待ってください」
と、六法全書をぺらぺら見ながら、
検察官 「今確認しますんで…。あーー、ちょっと古いのを持ってきてしまいまして…」
と、なぜか古い六法全書を持ってきたのでオロオロとする検察官。とにかく、初の裁判でみんな慣れてない感じです。
冒頭陳述によると、問題となっている加工した硬貨(以下、ギミックコイン)は2種類で「パンクチュアー」と「プレゼントリング」。
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| 手品用コインを作るため穴が開けられた硬貨(共同通信) | |
10円玉と100円玉の真ん中に穴をあけ、1セットで販売していたのが「パンクチュアー」で、50円玉の縁を残して削ったものに宝石を置く台座をつけて、縁だけを削った50円玉と合体させた指輪のような商品が「プレゼントリング」だそうです。
で、検察官が証拠をひとつひとつ読み上げるんだけど、なぜか傍聴席に向けて、写真を見せながらアピールするんですよ。
検察官 「これが、パンクチュアーの写真です。よく見ると、穴が空いてるのがわかると思うのですが」
と、なんだか手品のネタを見破ったかのように自慢げ。でも、写真がちっちゃくて全然見えないんだけども。他にも、
検察官 「これがパンクチュアーにタバコが貫通した写真です」
なんて言ってたけど、タバコを通して写真を撮らなくても証明十分だと思うんだけど。試してみたかったんだろうか。そして、マジックバー経営者の庄野被告人に対する被告人質問。
弁護人 「外国の硬貨なら問題ないんですけど、日本のお金を加工してしまったのはなぜですか?」
庄野被告人 「何十年も前から慣習というか販売されていましたし。昔、買ったこともあります」
弁護人 「個人的に見かけたのは、いつです?」
庄野被告人 「20歳のときなんで、38年前です」
弁護人 「本件は、平成17年9月から平成18年6月に村田被告人にギミックコインの制作を依頼しているわけですけど、それ以前もインターネットで販売していたんですよね」
庄野被告人 「はい。岡山県のマジック用品会社から仕入れてました」
この業界ではマジックコインの存在ってのは当たり前になってたようです。次は検察官からの質問。
検察官 「ギミックコインの所有権は?」
庄野被告人 「私になります」
検察官 「所有権は放棄でいいですね」
庄野被告人 「はい」
検察官 「警察のものになっても構いませんね」
庄野被告人 「はい」
念入りに聞く検察官を見ていると、個人的に欲しいんじゃないかとかんぐってしまうのだが。
検察官 「今回の事件であらためて考えたんですけど、パンクチュアーを使った手品は“まさか日本円を加工していないだろう”という、常識を利用したマジックなんですか」
庄野被告人 「…それもありますね」
なんて回りくどい驚き方なんだ。単純に硬いコインにタバコが通るから驚くってだけの手品でしょ。ちょっと面白い質問だよな。そして、裁判官からの質問。
裁判官 「これは昔からあったの?」
庄野被告人 「30年以上前から…」
裁判官 「こういうことになってね。コインを使ったマジックはなくなっちゃうのかね」
なぜか裁判官が寂しそうです。
庄野被告人 「普通のコインの手品は、タネを使ったマジックほどのインパクトはないかもしれないですね。今後なくなっていくとは思いますけどね」
と、コインマジックの衰退を予言して質問終了。次は旋盤工の村田被告人への質問です。
弁護人 「始めたきっかけは何ですか?」
村田被告人 「庄野さんから依頼があったので」
弁護人 「それで続けてしまったのは?」
村田被告人 「庄野さんからの反応が良くて、自分でも良くできたので…。有頂天になってしまったんだと思います」
どうやら村田被告人は小さい頃から手品が好きでギミックコインにも興味があったらしい。それが職人としての腕をこういうところで披露してしまったというわけなんだな。
最後に検察官からの求刑です。「常習的・職業的犯行」「このような重罪は罰金ですむはずがない」として、庄野被告人に懲役8月、村田被告人に懲役6月、さらにギミックコイン没収と言う求刑でした。
これに対し、弁護人の弁論。これがなかなか鋭い指摘で面白かったんですよ。
弁護人 「この法律は金属不足という戦後間もなくにできたわけです。私が調べたところ、昭和40年に1万円の罰金があっただけです。本件が正式な裁判を行うほどの犯行なのか疑うところでもあります」
この弁護人が言うには、約40年前に裁判があったらしいです。さらに、
弁護人 「この法律は、硬貨を潰して原料に戻すことを禁ずるものです。それは、昭和22年の立法過程を見ても明らかです。では、当時の国会でのやり取りを抜粋します。“現在の流通価格は9億3200万円です”これに対して質問者が“(金属としての)原料価値は?”と質問すると、その答えが“39億5000万円です”と」
10円玉が10円以上の価値があった時代のルールを、このご時勢に適用するのは変でしょう、という主張ですね。
この日はこれで閉廷かと思いきや、
裁判官 「(被告人とその家族が)大阪からいらしているということで、ちょっとお時間いただければ即決で行きますが…」
と、即日判決です。2分後、判決が言い渡されました。結果は、佐野被告人が懲役6月、村田被告人が懲役5月で、互いに執行猶予2年。そして、ギミックコイン没収。
裁判官 「では、判決の理由を述べます。えー、裁判所としては、こういう法律を知らなかったわけですが…」
法の番人である裁判所が知らないって…。
裁判官 「弁護人が主張する通り、時代にそぐわない法律かも知れませんが、日本に流通している硬貨を傷つけ、加工するというのは良くないだろうと。実際、今まで見過ごされてきたようですが。改定されて初めて裁判になったのが、マジックを愛する人たちがこうなるというのは裁判所としては心苦しい点もありますが…」
と、ものすごい被告人に対して気を使っている裁判官。
裁判官 「…というわけで、このような判決にいたしましたが、裁判所としてもこの量刑は(適切なのか)分かりません。他の犯罪を見て、この程度だろうと判断しました。今後は、法に触れない範囲でお客様を楽しませてください」
と、結構ぶっちゃけた理由を述べて、閉廷でした。
確かに、被告人のやったことはルール違反だし、ほめられるようなことではないんだけど、逮捕して裁判することに疑問を感じるね。貨幣損傷等取締法違反の本来の意味とは違うからなぁ。ある意味、お金って国の顔でもあるわけなんだから、その顔を傷つけた罪なのかもしれないな。
検察官の言葉を借りて言うなら“まさか日本円を加工してないだろう”とマジックでお客さんを驚かせてた被告人が“まさか日本円を加工して逮捕されるとは”と驚かされた事件ですね。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。
パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。
