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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
手品@法廷に検察官ふてくされ、裁判官「うぉぉ!」
文庫本「裁判狂時代 喜劇の法廷★傍聴記」(河出文庫)がまたもや増刷! 3刷目が発売になっていますので、まだ読んでいないという、時代に取り残されてる方は買ってくださいな。
毎年のことなんだけど、4月に入って裁判が少ない。公務員の人たちの異動、引継ぎの時期なんで、事実上春休み。そういうわけで前回は休載だったんだけど、先々週だけじゃなく、先週も裁判少なかったんですよ。報道された事件の裁判を書くことにしているんだけど、そんな括(くく)りをとっぱらっても書くことがない。どうしようかなぁと思ってたら、4月14日にこんなニュースが。
手品用に内側をくりぬく目的で500円玉などを集め、台湾で加工して輸入しようとしたとして、マジシャン3人が貨幣損傷等取締法違反などに問われた事件があり、東京地裁は13日、3人に有罪判決を言い渡した。
弁護人は、「マジシャンへの適用は“表現の自由”の侵害で憲法違反」と無罪を主張していた。
この罪名の裁判は(第75回=「裁判所が知らなかった?法律で有罪だって」)で取り上げてるんだけど、非常に珍しいんです。こういう変わった罪名の裁判は極力見るようにしてるんで、偶然にも3月6日の初公判を傍聴してたんですよ。
被告人は東京都で手品用品を扱ってるマジックショップのオーナー(36)店長(30)店員(26)の男性3人。
被告人らは、台湾に住む知人に手品で使うために加工した硬貨(以下、ギミックコイン)を作ってもらうため、500円玉50枚、100円玉50枚、10円玉100枚を郵送。そして、後日、完成したギミックコインを台湾の知人が日本に送ったところ、税関で発見された、というのが事件の内容。
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| 手品用コインを作るため穴が開けられた硬貨(共同通信) | |
貨幣損傷等取締法
(1)貨幣は、これを損傷し、または鋳(い)潰してはならない。
(2)貨幣は、これを損傷し、鋳潰す目的で集めてはならない。
(3)規定に違反した者は、これを1年以下の懲役、または20万円以下の罰金に処する。
(2)に該当するってわけなんだけど、今時鋳潰すヤツなんているのかねぇ。ホント、時代に見合っていないルールだよな。輸入の件もあるので、貨幣損傷等取締法違反だけでなく、関税法違反でも起訴されてます。
罪状認否で被告人らは罪を認めたものの、弁護人が無罪を主張です。理由は3つ。貨幣損傷等取締法の損傷にも、関税法の変造硬貨にも該当しないこと。マジシャンの正当な業務行為であること。ギミックコインを使うマジックを禁止するのは、表現の自由を侵害すること。
客観的な事実は認めるけど「法的にどうなのよ?」という争いです。
弁護士は、ギミックコインがどのようなものなのかを立証するために証人を呼んでいました。その証人というのが、日本奇術協会の理事長。現役のマジシャンでもある人なんです。日本のマジック界を背負っての出廷ですよ。
弁護人 「今回、ギミックコインが刑事裁判になってることについてどう思ういますか?」
証人 「意味のないことではないかと思います。誰も傷つけていないので」
弁護人 「ギミックコインを使うマジックというのは、どれくらいの歴史があるんですか?」
証人 「マジックの歴史で1番古いと思います。というのも、貨幣の前は石を使っていたわけですよね、人類は。そういう意味で言えば、エジプトの壁画にも小石を消す手品が載っていますから」
話が壮大すぎ。壁画って。ほんとにその壁画が手品のことを描いているのかは疑問だけど、それは関係ないでしょ。
弁護人 「わかりました。それはいいとして“ギミックコイン”というもの、名称はどれくらい前に出てきたんでしょうか?」
証人 「1635年に出版された(手品の)本に“ギミックコイン”と書いてあります。積み上げた硬貨が一瞬にして、積み上げたサイコロに変わるというマジックですけどね」
なんと、370年以上の歴史があるらしいです。すると、弁護人が
弁護人 「へぇ、ちなみに仕掛けはどうなってるんですか?」
証人 「えーーっと(苦笑い)…これって黙秘しちゃいけないんですか?」
昔の手品であっても、プロマジシャンとしてはタネあかしはしたくないようです。困ってる証人に対して、裁判官は、
裁判官 「ハハハ、ま、証人ですから」
証人で出廷したんだから、言えってことですね。というのも、証人は尋問の前に「良心に従って、真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」と宣誓書を読まされるんです。だから、ウソも隠し事も禁止。すべて、あからさまにしゃべらなきゃいけない状況で、マジックを語るパラドックス。証人は言いづらそうに
証人 「積んだ硬貨の中が空洞、筒のようになってまして、その中にサイコロが入ってると」
と、タネあかしです。
弁護人 「日本ではいつ頃からなんでしょう」
証人 「はっきりした年はわかりませんが、江戸時代です。“ぞくさんげぶくろ”という本にですね、(穴の空いている)一文銭をひもに通して、一瞬にしてひもを抜くというのが載っています」
弁護人 「そうなんですか!」
知ってか知らずか、ギミックコインの歴史に弁護人も興味津々。
弁護人 「日本で普及したのはいつですか?」
証人 「1989年に、○○さんがテレビでですね、100円玉にタバコを通すマジックをやって急激に広まりました。ま、アイデアは海外のものですが」
弁護人 「ちなみに、最近はどんな方が(ギミックコインを使って)やってるんですか?」
証人 「△△さん、□□さん。□□さんなんか、○○さんより前からやってましたけどね。100円玉をかじって、一瞬にして元に戻すとか」
もちろん、法廷ではすべて実名。隠し事禁止とは言えど、マジック業界からすれば、とんだ裏切り者状態ですよ。日本奇術協会理事長なのに。それくらい、ギミックコインはポピュラーだという主張なんだろうけど。そして、驚きの提案がされるのです。
弁護人 「いろんな種類のマジックがあると思うんですが、口で説明するのも分かりにくいでしょう。ぜひ、この場でギミックコインを使って実演してもらえませんか?」
なんと、法廷でマジックショーをやろうじゃないかというわけです。これは異例だ。すると証人は、隠し持っていた500円玉2枚をポケットから取り出して、マジックを始めようとした瞬間、検察官が立ち上がって、
検察官 「尋問の仕方として不適当!」
と、激怒です。手品の実演をしても、調書に(文字として)残らないから、無意味だという検察官の異議が出たわけ。これに対し、
裁判官 「無罪主張、まぁ、表現の自由を侵害しているという立証ですので、裁判所としてはやってもらってもよろしいかと」
検察官 「芸術家だから歌を歌いますとか言われても、調書になりませんし、こんなの聞いたことありませんから!」
裁判官 「んー、そんなに強くはない異議ということでよろしいか?」
興奮しすぎて支離滅裂な例え話をする検察官に、なんだか理由も分からないけどOKを出す裁判官。手品をさせたくない思いと手品が見たい思いが対立してますね。互いに心ここにあらず。結局、裁判官が実演を認めたのでマジックショー開催です。
証人はあらためて、ポケットから500円玉を出して立ち上がり、ふてくされてる検察官に、
証人 「ま、見れば面白いものですから(笑)」
と、火に油を注ぐような余計な一言を言ってスタート。
証人 「ここに500円玉が2枚あります」
と、手品を始めたんだけど、プロマジシャンの性なのか、満席の傍聴席の方を向いてやりだしたんですよ。これには弁護人も、
弁護人 「あのー、裁判官の方を向いてお願いします」
証人 「あぁ、そうか」
と、裁判官と検察官に見えるように手品のやり直しをお願いです。ってなわけで、傍聴席から見えるのは証人の背中。残念ながら手品は見えずですよ。
でも、せっかく手品が見える位置にいる検察官は視線をそらして、見ないふり。なんという大人気ない態度なんだ。ところが、もっと大人気ないのは裁判官。
証人 「2枚の500円玉をこすり合わせると、500円玉が消えて10円玉が現れました」
と、手品を披露した瞬間、
裁判官 「うおぉぉぉぉぉ!」
と、声を出すほどの驚きっぷり。楽しみすぎでしょ。完全に仕事忘れてるよな。
4月13日判決。オーナーは懲役8月、店長と店員は懲役6月。3人とも3年間の執行猶予がつく判決が言い渡されました。
裁判官は「今後、ギミックコインを使う手品は事実上困難だが、手品自体を制限するわけではない。貨幣の信用を保護するためには、貨幣損傷等取締法は現在も意味をなしている」等々、弁護人の主張を認めない判決文を朗読していました。
そして、判決文を読み終えると裁判官は、自分の言葉で、
裁判官 「マジシャンというのは、人を喜ばせ、感動させ、楽しませるものと、僕も思います。ただ、それ(表現の自由)は公共の福祉に反しない前提ですから、プロとして法に触れるのは禁じ手だと思います」
と、前回マジックを楽しんだだけあって、マジシャンを褒め称えて締めの言葉にしていました。
貨幣損傷等取締法違反の方は、バックナンバー第75回の判例もあるし、関税法もあるし、有罪だとは思ってたんだけど、関税法の方も有罪になるとは。広い意味で言えば、変造硬貨なんだけど、ちょっと違う気がするんだよなぁ。もちろん、これを無罪にして世間にギミックコインが大量に出回ったりしたら、大変なのは分かるけどね。
ギミックコインの作成は許可制にしたらどうだろう。マジシャンは人を苦しめたり、傷つけようとしてるわけじゃなく、楽しませようとしてるだけなんだから。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。
パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。
