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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
猫に小判、犬にシャネル
「喜劇の法廷傍聴記 裁判狂時代」がこっそり増刷で4刷目が発売中です。傍聴記はもちろん、裁判傍聴のやり方から裁判に関するどうでもいい雑学まで、いろいろ書いてますんで、読んでない方は買ってくださいな。
今回は先週火曜日(6月12日)に行われた池田和代被告人の裁判の話。罪名は、商標法違反。
今年4月、東京都台東区のペット用品店経営の池田和代(当時38)が、シャネルなどのブランド製と偽って手作りの犬猫用の服を販売したとして、警視庁深川署に商標法違反の現行犯で逮捕され、偽ブランドのペット用品計879点を押収された事件です。池田は趣味の手芸を活かして06年夏から販売を開始、商品のほとんどが手作りで約150万円を売り上げていた。ちなみにシャネルの日本法人によると、ペット用の服は販売していないという。
偽ブランドの商品を販売したという裁判って少なくはないんだけど、ペット用品となると珍しいらしい。個人的には1度も見たことないですね。しかも、組織的に製造したんじゃなくて手作り。
シャネルでは犬猫用の服は販売していないっていうのが面白いとこですね。買った人は偽物と分かっていて購入したのか、高級ブランドのロゴが入っていれば、何でも良かったのか。ブランド物って身につけてる人の品格を問われている気がして、オレは手が出せないけどなぁ。あらためて、日本人はブランド好きなんだなぁと思わせる事件です。
ここからが裁判の話。検察官の冒頭陳述によると、被告人は06年にネットオークションでブランドのロゴ入りの犬用の服を購入(もちろん偽物)。それを自分の犬のサイズに作り直した。同様のことを繰り返すうちに、自分で作り直したペット用の服をフリーマーケットで販売したところ大好評。06年4月には「犬猫のお洋服」を開業し、同年8月からは自分で創作した偽ブランドのペット服を販売していた。
そして、今年4月21日に逮捕。店内で偽ブランドのロゴマーク入りのシャネル、エルメス、ルイ・ヴィトン、グッチのペット服を793点販売しようとしていたとのこと。
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| オープン当日のシャネル銀座ビル、偽物商品には大迷惑(共同) | |
ネットオークションで堂々と売っていたヤツもすごいけどね。気になるのは新聞では879点押収(産経新聞では880点)と書いてあったんだけど、起訴されたのは793点なんですね。残りの86点は本物だったのか。それとも、完全なオリジナル商品もあったのか。それは裁判じゃ明らかにならなかったけど。
ただ、検察官が証拠品の一部を朗読する際、
検察官 「エルメスのバッグは3つありまして、そのうち1つが犬猫用で、残り2つは人間用のバッグであります」
と言っていたので、ペット用品以外も扱ってたみたいですね。いろんな商品を売ってたと考えると、偽ブランド商品以外にも押収されたんでしょう。それにしても“人間用のバッグ”って、あまり言わないけど。そして、被告人質問。
弁護人 「あなたは子どものことから動物が好きなの?」
被告人 「犬が大好きです」
弁護人 「猫なんかも好きなの?」
被告人 「どちらかと言うと犬ですね」
弁護人 「今は犬は飼ってます?」
被告人 「2匹飼っています。1匹は買ったんですが、もう1匹は昔働いていたところの店長が犬を保健所に連れて行くと言ってたんで、それなら私が…」
と、当時のことを思い出してか泣き出す被告人。よほど犬好きなんでしょう。
弁護人 「で、手先が器用で手芸が趣味だと」
被告人 「はい」
弁護人 「他にはサッカーも好きなんだって?」
被告人 「(06年W杯の時に)ドイツまで行きました」
この事件にサッカーは関係ない…と思いきや、
弁護人 「応援用の帽子を自分で作ったらしいじゃない。なんか、電球がついてる帽子なんでしょ」
被告人 「はい。現地ではマスコミの人が集中して、帽子のことでドイツの取材も受けましたし、日本のアナウンサーにもいろいろ聞かれたりして、週刊誌にも載りましたし」
弁護人 「あぁそう、見なかったけどね」
自分から話をふったくせに、冷たい弁護人です。とにかく、被告人はそれくらい手先が器用で、手芸が好きだということのようです。で、やっと事件の核心に触れる質問です。
弁護人 「最初はどう作ったんですか?」
被告人 「まず、ネットで買いました。それをばらしてから、自分の犬にぴったり合うように作り直しました」
弁護人 「Tシャツにはロゴマークが印刷されてたようだけど」
被告人 「印刷する機械がありまして、それを使ってやってました」
弁護人 「昔、プリントゴッコなんてのがあったけど、そんなもんかな」
今でもプリントゴッコは売ってるんだけど、そういう身近な物を使用していたようです。
弁護人 「お店を開店するのに、いくらかかりました?」
被告人 「店を借りるのは50万円ほどでしたが、設備投資もありますので、360万円くらいかかりました」
弁護人 「そのお金は?」
被告人 「借金をして…」
弁護人 「その借金は返し終わってるんですか?」
被告人 「400~500万くらい残っています」
弁護人 「そりゃ大変だな」
借金がふくらんでるってことは、もうかっていなかったんでしょう。借金も増えて、さらに逮捕されるとは。
弁護人 「最後に悪いことをしたと思っていますか?」
被告人 「はい。シャネル社が築き上げてきた信用をなくしてしまったと思います。それだけでなく、日本の信頼度も下げてしまったと思います」
被告人手作りの服だけでシャネルの信用性ががた落ちになることはないだろうけど、小さいことの積み重ねで日本の評価が悪くなることはあるだろうからね。次は検察官から。
検察官 「売ってる時に“信用を害するんだ”という認識がありました?」
被告人 「(そこまでは)分かっていませんでした。悪いこととは思っていたんですが」
検察官 「なぜ、売ったんですか?」
被告人 「皆様が“とてもいい”とお褒めの言葉を言ってくれて、それで(フリーマーケットからお店へ)広がってしまいました」
検察官 「(被告人の)オリジナルと偽物(ブランド)の値段は、どれくらい違うんですか?」
被告人 「同じくらいです」
検察官 「売れたのはどっち?」
被告人 「偽物の方が」
どっちも被告人のお手製なんだけど、偽ブランドの方が売れていくのはちょっと悲しい気分だったろうな。最後は、裁判官からの質問。
裁判官 「調書見てもね、ロゴの入った製品の作り方がわからないんだけど。“Tシャツ君を使って”って書いてあるんだけど」
被告人 「ロゴマークを光で焼き付けて、その跡が残ったところにインクで…」
と作り方を説明すると、
裁判官 「それが“Tシャツ君”ですかぁ。その“Tシャツ君”を使って、布地に焼き付けると。ふーーん、“Tシャツ君”ねぇ」
と、Tシャツ君に興味津々のご様子。そんなに気にするとこじゃないと思うんだけど。
この後、検察官が懲役2年6月と偽物没収を求刑して、閉廷。
この事件って、シャネルとかの会社は被害者でしょ。だから、偽物を販売目的で所持していた被告人が逮捕、起訴されたのは分かる。では、この商品を買って、犬に着せて散歩している人はどうなるの? 被害会社では販売していない商品を、街中で見せてる状態ですよ。こっちも十分にシャネルの信用を害する行為だと思うんだけどね。本物と思い込んで着せて歩いていたら被害者と言えるかもしれないけど、偽物と知ってやっていたら問題だよね。シャネルの関係者がそれを見つけて「違法ですよ、やめてください」と指摘したら「犬に何を着せようと私の勝手でしょ! ちゃんとお店でお金を払って買ったのよ!」と逆ギレされるかもしれない。
そう考えると偽ブランド品を売るという行為は、社会に被害者を生み出すのはもちろんだが、それだけでなく(悪意の意識のない)加害者まで生み出しかねないわけで、とんでもない迷惑だよ。商売をするなら、そこまで考えてやってほしいもんだね。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。
パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。
