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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」

アキバ系?コスプレ強盗は前科4犯

 先週水曜日(6月20日)、犯罪被害者、遺族が被告人に直接質問ができる刑事訴訟法改正案が可決しました。俗に言う、「被害者参加制度」ってやつですね。賛否両論あるみたいだけど、被告人の人権ばかりが擁護され、被害者、遺族の扱いが二の次になっていた現状から考えると、司法が一歩成熟したと考えるのが妥当でしょうね。

 で、この改正案には「付帯私訴制度」の導入も盛り込まれているわけ。本来、民事裁判で行われる損害賠償の請求も、刑事裁判で行うということですね。こりゃ、刑事の裁判官は大忙し。今でさえ、裁判官の数が公判の数から見ると、少ないって言われているのに、過労死する裁判官も出てくるんじゃないの? この制度に加え、2年後には裁判員制度だし。裁判官のぶっちゃけた意見聞きたいよなぁ。頭抱えてんじゃないかな。

 今回は先週水曜日に東京簡易裁判所で行われた浅野寛文被告人の裁判の話。簡易裁判の傍聴記っていうのも珍しいけどね。罪名は建造物侵入、窃盗。事件の内容は、当時の新聞記事から抜粋しましょう。

 逮捕当時の記事から:関係者を装ってコンサート会場のグッズ売り場に入り込み、現金を盗んだとして無職・浅野寛文被告(48、建造物侵入罪で起訴)を再逮捕した。「他にも十数件くらいやった」と供述しており、余罪を追及している。調べでは、浅野容疑者は昨年7月16日午後6時15分頃、江東区青海のコンサートホール・ZEPP TOKYOに関係者を装って侵入。グッズ売り場に置いてあった現金145万円を盗んだ疑い。浅野容疑者はスーツを着用し、耳にイヤホンをつけて関係者を装っていた。
 なお同事件の前の4月8日、墨田区内のホールで現金を盗もうとしていた浅野容疑者を警備員が発見し、逮捕していた。

 新聞ってよく分からないのが、(※注)起訴されてる人も“容疑者”って報じるのね。だって、逮捕されたら容疑者(正しくは被疑者)で、起訴されたら被告(正しくは被告人)でしょ。

 それはさておき、変わった事件ですね。周りに警備員がいるんだから、度胸あるよな。それは後で明らかになるんだけど。それよりスーツ着て、イヤホンつけてれば、コンサートホールに入れるもんなんですね。まさか、警備員にドロボーが混じっているとは、思いもしないだろうけど。

 検察官が、墨田区のホールで現行犯逮捕した警備員の供述を朗読したんだけど、

 検察官 「被告人はスタッフでもないのに、グッズ売り場付近を行ったり来たりしていた。それで、注意して見ていたら、商品を管理するクロークに入っていき、さらに奥のカーテンで仕切られたところへ入っていった」

 と、怪しまれていたことが分かりました。では、なぜ、疑われていたのか? それは警備員がスタッフ全員の顔を記憶していたからじゃないんです。

 検察官 「他の警備員の話ですが、警備員は全員Tシャツを着ていたのに、被告人1人だけがスーツ姿だったといのことです」

 気合を入れてスーツ着ていったのが失敗だったようですね。そりゃ、目立つよなぁ。

千葉マリン
被告人が侵入していた千葉マリンスタジアム

 で、もっと驚いたのが、被告人の取調べで供述した内容。
 検察官 「被告人は平成18年の6月から同様の犯行をしたと供述しています。以下、被告人の調書を読みますが“ぴあを見て、若者向けに行われるコンサート会場を狙った。ごくろうさんと声を掛ければ、怪しまれなかった。今まで、7~8回同じことをやって、多いときは1回で200万円くらい盗んだ”と供述しています」

 被害届が、ZEPP TOKYOの1つだけなのか他は起訴されてないようです。被告人の兄が情状証人として出廷し、今後の監督を約束。そして、被告人質問です。

 弁護人 「なぜ、こんなことやったんですか」
 被告人 「生活費に困ったこともありまして、自分自身の意志の弱さです。今後はまじめに働きます」

 等々、謝罪の言葉を述べて終了。次は、検察官からの質問。これがなかなか面白い。

 検察官 「盗みは癖になるのかい? あなたの心の中を聞かせてくれ」
 被告人 「癖というわけではないんですけど、楽して盗めたというのが」
 検察官 「こんな楽なことないだろ。1度に200万円も手に入れて。あなたにとって、盗みっていうのは禁断の果実なのか? 1回食べちゃうとダメなのか。味が忘れられないのか?」
 被告人 「いや、これを最後にします」

 これだけ検察官が言うには理由があるのです。それは、被告人は前科4犯で、すべて建造物侵入と窃盗の組み合わせ。で、過去の犯罪の詳細を明らかにするのです。

 検察官 「ホントにやめられるのか? と、言うのもさぁ、犯行の手口がエスカレートしてるんだよ。初犯が倉庫荒らしだろう? で、その次がマリンスタジアムのブースに侵入。新聞記者とかの格好して入ったんだろ?」
 被告人 「はい、そうです」
 検察官 「その次が、スーパーのレジ室。これも働いている人を装って入ったんだろ?」
 被告人 「はい」
 検察官 「で、前回が病院に侵入。これは、どんな格好で入ったんだ?」
 被告人 「あの、白衣着て…」

 この被告人、TPOに合わせたコスプレ強盗なんですね。こりゃ、すごい。盗みより、コスプレして侵入するのが趣味になってる気がするけど、いろいろやって度胸が付いたのか、感覚が麻痺しちゃってたのか、最終的には警備員のコスプレにいたったと。作り話のような、マンガみたいな被告人ですね。
 で、検察官のしめ。

 検察官 「取調べで最初否認してただろ」
 被告人 「逮捕されてパニックになってしまって、1日だけ待ってくれと」
 検察官 「正直に生きようよ。盗まないのも正直に生きることだぞ。あと、何年生きられるか分からないけどさぁ。刑務所を出たり入ったりするのか、仕事終わって赤提灯で1杯飲むのを楽しみにするか。選ぶのは君自身だからね」

 なぜか、犯罪を繰り返すことと、仕事終わりの1杯の二択を提案する検察官。別に被告人が酒好きという話は出てきてないんだけど。最後は裁判官から

 裁判官 「あと、何年生きられるかという話がありましたけど、来年50歳でしょ。30年から40年、結構ありますよ。…その長い人生でね、捕まらないドロボーで一生やっていこうと考えたことありますか? ルパンじゃないけど」

 この一言ではっとしたんだけど、この被告人、ルパン3世みたいですね。にしても、裁判官からそんなたとえがでてくるとは。で、その答えが、

 被告人 「考えてみました。でも、そうやって、生きて行ったら、次の世界で生まれ変わったとき、自分はいったいどんな…」

 と、来世の話を始めると、

 裁判官 「人は1回しか生きられないんだよね」

 と、一刀両断。そして、ながぁ~い説教です。

 裁判官 「あのね、コツコツ働いてればね、贅沢はできなくとも、誰にも気兼ねせずちょっとした楽しみが待ってってね。それが明日への活力にもなる。そういう、人間としてい~い生活があるんですよ。私も法廷という狭い世界しか知らないけど、ドロボーやってきた人で幸せそうな人見たことないよね。あなたをいじめるわけじゃないですけどね、前刑を見るとね。33万、150万、500万と盗ってるでしょ。味をしめちゃってるんですよ。こんな大金が入ってきたら、この先働けるのかなーっと。調書見るとね、あなたのお母さんはこの事件のこと知って“がっかりして声も出ない”って書いてますけどね。私みたいに大声出している間は元気あるんですよ。ま、時間も過ぎてるんでね。この辺で終わりにしますけど、考えなさいね」

 この裁判官のワンマンショー。実際はもっと、もっと喋ってるんで。予定時間を過ぎたのも、裁判官の長い講釈のせいだと思うんだけど。それだけ、被告人のこと親身の思ってのことでしょう。

 被告人もうなずきながら聞いてたんで、もうやらないとは思うんだけど。少なくとも、コスプレして裁判所に侵入することはないでしょうね。




 (※)ニッカンスポーツコム注・・・今回の浅野被告の場合は再逮捕の段階で、すでに建造物侵入罪で起訴されていましたが、再逮捕の容疑である窃盗事件に関しては起訴前であり被疑者の段階ということで、容疑者と表記しています。同一人物ではありますが、報道された時点では建造物侵入罪では浅野被告で、窃盗容疑に関しては浅野容疑者であり、どちらの事件を論じているかにより被告と容疑者を使い分けます。冒頭部分の「無職・浅野寛文被告(48、建造物侵入罪で起訴)を再逮捕した」という表記は、窃盗罪で逮捕された容疑者は別の事件の被告であるという、被疑者のその時点でのいわば“肩書き”を示しているため、容疑者ではなく被告という表記です。弊紙に限らず、大方のメディアはこのようなルールに従って表記しているようです。・・・阿曽山大噴火氏の指摘の通り、確かに面倒くさく感じられるかもしれませんが。


阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)

阿曽山大噴火・写真

 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。

 パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。



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