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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
知念里奈の元夫、指名手配そして有罪
先週の新聞に載ってたんだけど、今年上半期の犯罪件数が去年より減っているそうな。10年ぶりに年間の犯罪件数が200万件を下回りそうなペースらしい。っていうか、毎年そんなに事件が起きてるってことが驚きなんだけどね。
個人的な感覚でいえば、東京地裁で行われてる刑事裁判の数も減ってる気がするなぁ。平和で何より。でも、「裁判員に選任されたので…」と個人情報を聞き出そうとする事例があったと法務省が発表したのも先週の出来事。悪いこと考えるヤツは絶えないもんだ。
さて、今回は7月12日に行われた中村健太郎被告人(24)の裁判傍聴記。罪名は、麻薬および向精神薬取締法違反。モデルの中村は05年8月に女優・知念里奈さん(26)と結婚し、今年3月に離婚したばかり。現役のモデルが逮捕されたというよりは「知念里奈の元夫が逮捕された」と報道された事件ですね。報道によると今年5月6日、中村が六本木の空き地に友人男女3人といた際、近くの地面に大麻のようなものが落ちているのをパトロール中の麻布署員が発見。中村は職務質問され、尿検査を求められた。数日後、尿からコカインが検出され指名手配されたために、自ら麻布署に出頭し逮捕されたという。逮捕当時は「全く身に覚えがない」と否認していたのだが…。
ファッションの世界に関しては疎いもんで、オレは被告人のことを知らなかったんだけど、有名人の公判なので、ちょっと早めに法廷に入ったんです。すると、20席しかない傍聴席の半分以上が年配の女性で埋まってんのよ。この被告人のファンなんでしょうか? その後は女子高生が数人入ってきて、即満席。
で、被告人が入廷してきたんだけど、これが「えっ」と思わず声を漏らしてしまうほどの衝撃。ジーンズに黒いTシャツを着て、長身で細身。これぞモデルといった感じです。驚いたのはそのスタイルの良さではないんです。驚いたのは髪。なんと、アフロヘアなのよ。と言うのも通常は反省の意味もこめて、弁護人が頭を丸めることを勧めるらしく(ナンセンスな話だが)、丸刈りの被告人が多いんです。アフロの被告人は初めて見た。しかも、そのアフロが肩幅よりもデカいんですよ。こんなにボリュームのあるアフロヘアを見るのも初めて。なんだか、真っ黒な道路標識のよう。
まずは検察官による起訴状の朗読。
検察官 「被告人は平成19年5月6日、東京都渋谷のクラブ○○で、コカインの粉末を吸飲した。…本件は即決裁判での審理をお願いします」
去年の10月から導入されている即決裁判です。これは、被告人が罪を認めている場合に冒頭陳述などを極力省略して、短時間で判決を出すやり方なんです。要するに、被告人に逮捕時は否認してたけど、今は認めているってことなんでしょう。ちなみに、即決裁判の場合は、執行猶予判決が出ることになってるんです。
で、罪状認否。
裁判官 「今の起訴状に間違いありませんか?」
被告人 「はい」
裁判官 「それはこの件に関しては有罪であり、処罰されても仕方ないということですか?」
被告人 「はい」
裁判官 「では、本件は即決裁判で行います」
この時点で、執行猶予が確定です。検察官が、新聞記事の方が詳しいんじゃないかと思えるほど、省略して事件を説明してから被告人質問スタート!
まずは弁護人から。
弁護人 「起訴状に間違いないですね」
被告人 「はい」
弁護人 「今までコカインを使用したことあるんですか?」
被告人 「初めてです」
弁護人 「1カ月拘束されて反省しましたか?」
被告人 「はい。もう十分に反省しました」
弁護人 「あなたのお父さんから“保釈はしないでほしい”と言われたんで、今日までこうして身柄が拘束されてるわけなんですけど。あ、そうだ、これを聞いておかなくちゃね。髪形なんだけど、それはそのままの状態なんだって? えっと、お父さんがどちらの方でしたっけ?」
被告人 「アフリカの…」
弁護人 「遺伝なんでしょ」
被告人 「そうですね」
弁護人 「パーマとかじゃないんだよね」
被告人 「えぇ違います」
弁護人 「それで長期間拘束されて散髪できなかったから、今の頭になってるんだよね」
被告人 「はい、そうです」
これで弁護人からの質問終了。ほとんどが髪の毛に関する質問のような。
次は検察官からの質問。
検察官 「法に触れるのは分かってました?」
被告人 「はい」
検察官 「じゃ、何でやったんですか」
被告人 「遊びの延長というか…」
検察官 「仲間たちと一緒にやってますけど、コカインを使用したのはホントに初めてなんですか?」
被告人 「間違いないです」
検察官 「今後、クラブには行くんですか?」
被告人 「機会があれば、遊びに行こうとは思います」
そこには行きませんって答えるべきでしょう。これは検察官に怒られるなと思ったら、
検察官 「そうですか」
と、あっさりスルー。即決裁判だからなのか、優しい検察官です。
検察官 「あと、仲間との付き合いはどうするんですか?」
被告人 「少し考えます。よい付き合いではないんで…」
“少し考える”って。この場ではっきりした方が反省のアピールになると思うんだけど、このあいまいな答えに対し、
検察官 「こういう薬物は体にも悪いし、暴力団の資金にもなってるんですよ」
と、忠告して質問終了。全く覇気がないです。最後は裁判官からの質問。
裁判官 「あのー、ヘアースタイルがね、インパクトあるんだけど、散髪に行けないからという話でしたよね。いつもは半分くらい?」
裁判官も事件とは全く関係のないアフロヘアが気になるようです。
被告人 「んー、長さは分からないですけど(ボリュームは)その日によりますね」
裁判官 「あぁそう。私はクラブってよく知らないんだけど、薬物やってる人が多いの?」
被告人 「そんな人ばかりではないですけど、そういう見方をされるのは仕方ないかなと」
裁判官 「この手は、クラブが舞台となってる事件も多いんですよね。だから、しっかりしてないとねぇ。あなたはその~、ね、ネクタイしめてビジネス街通ってる人と比べてインパクトのある格好してるからね、余程しっかりしてないと足元すくわれて事件に巻き込まれてしまうでしょうからね」
と、遠まわしに“クラブに行くのはどうなの?”と問いかけているように思えました。
それと同時に“世の中は偏見に満ちてるよ”とアドバイスしたのかもしれないですね。今まで何度も「ネクタイ締めてビジネス街通ってる人」が犯した事件を裁いてきてるんだし。深読みし過ぎかもいれないけど、裁判官の一言ってのは、深みがあるんだよなぁ。
この後、検察官が懲役1年6月を求刑。その直後、
裁判官 「では、判決を言い渡します。主文!被告人を懲役1年6月執行猶予3年」
と、判決が出て閉廷。ふと時計を見ると開廷してから20分しか経ってないんですよ。あっと言う間。裁判っていうか、何かの手続きを見てた感じのインスタントっぷりに傍聴席のおばさまも呆気に取られてましたね。
再犯するかしないかは本人次第で、裁判の長さは関係ないんだけど、味気ないなぁ。
こんなにあっさりと終わっちゃうと、公判を開く必要があるのかと思うね。まあ、裁判所としては裁判は法廷で行うっていう“外見”にこだわらなきゃいけないのでしょうかね。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。
パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。