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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
女優志望の妹殺害、見えてこない動機
先週は平成19年版警察白書が発行されました。白書ってどれくらいの人が買うんだろうか。他の白書は読んだことないけど、裁判傍聴をしてると、この警察白書と法務省から出される犯罪白書が非常に興味深いんです。
で、去年のデータを見て驚いたのが、街頭での暴行件数の多さ。街頭犯罪自体は、ここ数年で減少の方向にあるんだけど、暴行だけが異様に伸びているんですよね。10年前の比べると約4倍も増えてる。最近の人はキレやすくて、手が出てしまうんでしょうか? もっとすごいのがニセブランド品。数だけで見ると韓国から輸入された物が一番多いんだけど、前年比で見ると中国がダントツ。なんと、7・6倍。平成17年が9663点だったのに、平成18年は7万3512点。ケタ違い。一体中国で何があったんだ? 偽ディズニーランドなんかに代表される、中国の知的財産権侵害のニュースはこれに起因するものなのかね。
他にも面白い情報満載。興味があれば是非。
さて、今回は7月31日に行われた武藤勇貴被告人の初公判の話。罪名は、殺人、死体損壊。浪人生の兄が女優志望の妹を殺害、遺体を切断し大々的に伝えられた事件です。
06年12月30日、被告人は自宅で妹の亜澄さんを殺害し、包丁とのこぎりで遺体を切断。07年1月3日、切断された遺体を両親が発見した。
今年は死体損壊の事件が例年と比べて異常なくらいに多いらしいんだけど、社会に衝撃を与えたという点では、その中でも特筆される事件でしょう。傍聴券64枚に対して、希望者が345人並んだことからも、注目度の高さが伺えます。ちなみに、俺の抽選結果はハズレだったんだけど、当たり券を他の人にいただいて入廷。
刑務官2人に連れられて入廷して来た被告人は、白ワイシャツに濃紺のスラックスといういでたち。被告人席に座るときには「失礼します」、裁判長に証言台に呼ばれると「よろしくお願いします」と小さい声で言ってるところも見ると、礼儀正しく几帳面な印象を受けます。
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| 東京・代々木署を出る時の武藤勇貴被告(共同通信) | |
検察官から起訴状が読み上げられ、
裁判長 「起訴事実に間違いありませんか?」
被告人 「ないと思います」
と、マイクを通しても聞き取りにくいほどの小さい声で罪を認めました。
そして、検察官の冒頭陳述。被害者である亜澄さんは両親にも反抗的で気の強い性格だったらしい。そのことで父親が泣いている姿を見て、被告人は亜澄さんに対する憎悪の念を抱き始める。
犯行当日。亜澄さんは4度目の歯学部の受験を控えた被告人に対し「ゆう君は“勉強しないから成績が悪い”って言うけど、ホントは分からないね」と言葉を投げかけた。被告人はこれを“いくら勉強してもムダ”と言われたと思い、亜澄さんの後頭部を木刀で殴った。「私が何かしたかよ! 何すんだよ!」と怒る亜澄さんに対し、さらに10回ほど木刀で殴った。今度は「分かった、分かったからやめろ」と懇願する亜澄さんの右手を踏みつけながら「お前が生意気言うからだ」等、両親に対する言動を厳しく非難した。しかし、亜澄さんが「右手が痛てえんだよ! どけよ! 私は女優なんだよ! 自分で稼げるようになって、こんな家出てってやる! 私は女優になってスターになる夢があるの! ゆう君が歯医者になるのはパパとママの真似じゃないか!」と怒鳴ったとこで、被告人は「この口を黙らせるのは殺すしかない」と殺害を決意したという。
そして、被告人は亜澄さんの首にタオルを巻きつける。テレビドラマで180秒絞めれば死ぬというのを見ていたので、数を数えながら首を絞め続け、120まで数えたところで手を離した。まだ、息があったので被告人は亜澄さんは風呂へ運んで、3分間浴槽に沈め、殺害した。
その後、被告人は2時間かけて、包丁、のこぎりで遺体を切断した。
これが事件の詳細です。被害者が亡くなっているので、被告人の供述をもとにしたストーリーと言った方が正しいのかもしれないけど、こうして書いているのも嫌になるくらい、残酷で異常な犯行なんだけど、法廷ではもっと生々しく語られているわけでして。この検察の冒頭陳述に反論するのが弁護人。
弁護人 「被告人は犯行当時、心神喪失または心神耗弱の状態であったと思慮します。検察官が主張するような試験のプレッシャーはありませんでした。さらに仲が悪かったということもなく、被告人と被害者は小中校を毎日2人で通学し、被告人は妹の誕生日にケーキを焼いてあげていたこともあります。被告人は殺害の動機を合理的に説明できずにいます」
と憎悪の念を抱いていたことを否定。さらに、
弁護人 「被告人は過度の潔癖症で死体損壊は普段の被告人には到底無理」
と犯行時は普段の被告人ではなかったという主張のようです。それ以前に、人を殺害する時点で通常の精神状態ではなかったと考えられるけどね。
この後、被告人の父、母、兄が証人として出廷。被告人の親、兄であり、被害者の親、兄でもあるわけです。それが情状証人として出廷するのは内心複雑だろうなぁ。これは心中察するにあまりあります。まずは父親の証人尋問。
弁護人 「被告人の性格を教えてください」
父 「おとなしくて人に優しい。潔癖症…。あと、我慢強いところがあります。兄弟ゲンカになりそうなときは、自分から口や手は出さなかったですね。親に口答えすることもなかったです」
弁護人 「犯行前ですが、被告人は受験のプレッシャーを感じているようでしたか?」
父 「感じられませんでした。昼寝て、夕方起きて部屋でパソコン…。勉強しないし、授業に出ないし、気楽に過ごしているのかなと」
弁護人 「亜澄さんの性格は?」
父 「気が強くて攻撃的。人の意見を聞かないし、頑固で。悪いことばかりになってしまって…」
弁護人 「悪い思い出しかないんでしょうか?」
父 「常々かわいいと思っていました。優しいところもあったし、肩もんでくれたり、プレゼントをくれたり。やっぱり娘だなぁって思うことがありました」
弁護人 「娘さんにだけ甘かったんですか」
父 「うーーん、これは勇貴は知らないでしょうけど、小遣いで言えば、勇貴は3万円、亜澄は5万円でした」
この後は、事件のことが質問されて、最後に、
弁護人 「どうすれば事件は起きなかったんでしょうか」
父 「あとで考えると、勇貴に言っておけばよかったのかなぁと。亜澄が芸能活動をやりたいがっていることを」
弁護人 「亜澄さんに対して、今どんな気持ちですか?」
父 「大事に大事にしてきたのにこんなことになって」
弁護人 「勇貴君に対しては?」
父 「普段の家庭のことを伝えておけばよかった」
と家庭内のコミュニケーション不足を悔やんでいました。このことは母親も同じ思いのようで、
弁護人 「お母さんから見て、事件の原因は?」
母 「時期が悪かった。亜澄はバイトをクビになって、12月はずっと機嫌が悪かったんです。勇貴は試験のプレッシャーで。亜澄が女優を目指していることを伝えれば変わっていたかもしれないです」
弁護人 「コミュニケーションが足りなかったと」
母 「家庭でもっと話すことがあったとは思いますが、共通の話題がなかった。決して、会話の少ない家庭ではなかったのですが」
と、コミュニケーション不足を後悔していました。このやり取りに対し、裁判長は弁護人が主張する“試験のプレッシャーはなかった”という話と相反するので、補充質問。
裁判長 「プレッシャーと思ったのは?」
母 「去年の写真と比べて、なんともいえない険しい表情でしたので」
勉強もせず、ネットゲームばかりやってはいたけど、重圧を感じているように見えた、とのこと。
裁判長 「親としては何か言ってあげました?」
母 「4浪は許さないよ、と。好きなことがあれば違う学部も受けたら、と」
裁判長 「他の道を探している様子は?」
母 「ありません。“任せとけ”って言って。どこが任せとけな成績かとは思ってたんですが」
最後は被告人の兄の証人尋問。内容はほぼ両親と同じで、最後に。
兄 「事件の1年半前から勇貴と亜澄は仲が良くなかった。私が火に油を注がないように(亜澄に)話しかけなかったのが逆効果だったかなと。亜澄の気持ちを分かってあげればよかった。私はこれで弟妹の2人をなくしました。亜澄は亡くなりましたが、弟も長い間遠いところへ行かなければならない。もちろん、罪は償わないければいけませんが寛大な判決をお願いします」
と、裁判長に伝えて終了。これって、被告人に被害者が女優の夢を伝えていれば起きてなかったんだろうか。それが原因なんだろうか? かといって、どこに原因があるのか見えてこない公判だったけど。
この裁判は、ニュース、新聞で大々的に取り上げられてたけど、ほとんどが被害者亜澄さんの話。確かに、親、兄が被害者に対し非難していたのは事実なんだけど(このコラムでは割愛)、亡くなった人をあんなに悪く言うのは珍しいんだよな。それを被告人は横で聞いているわけで、自分のやったことを多少正当化するんじゃないかと心配だ。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。
パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。
