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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」

先生、民主主義って分かってる?

 ご存知の通り、10月1日~7日は「法の日週間」でございます。この時期は全国津々浦々で法に関するイベントが行われるわけ。今年の変り種は「京都地方裁判所検定」ですかね。京都検定なら知ってるけど。

 気になるのは10月6日に法務省で行われる「赤レンガ秋祭り」。何が気になるかっていうと、「各地で活躍する検察広報キャラクター紹介」のコーナーです。どうやら、全国の検察庁キャラクターが勢ぞろいするらしいってことは、先日発表された東京地検の広報キャラクター“江戸っ子検ちゃん”や、函館地検の“はっぴー”、福井地検の“やるカニ”なんかが1度に見られるのか! これはすごい。

 ついでに自分の宣伝を。10月7日(日)14時から、秋葉原の有隣堂ヨドバシカメラAKIBA店で「被告人、前へ。 法廷で初めて話せることもある」のサイン会があります。まだ買ってない方はこの機会にどーぞ。あと、10月5日から「音泉」でネットラジオがはじまります。タイトルは「バラトラ~こちらオーディション傍聴席~」です。声優の宮沢ゆあなとパーソナリティーやってるんで是非。法の日週間非公認イベントとラジオだけど。

 さて、今回は9月27日に行われた山口栄被告人の裁判の話。罪名は、公職選挙法違反。元公立小学校教諭山口栄(64)が、自民党の中川秀直幹事長宛に「拳銃で襲撃する」などとする電子メールを送ったとして、脅迫容疑で逮捕された事件ですね。

 調べでは、6月29日~7月8日に計5回にわたり、自宅のパソコンから中川幹事長のホームページの問い合わせのコーナーに「織田信長」「水戸黄門」などを名乗って、「必ず刺されるぞ」と脅迫するメールを送った。その1カ月後、塩崎恭久官房長官と公明党の北側一雄幹事長にも同様のメールを送っていたとして、公職選挙法違反で追送検された。山口は「現政権を弱体化させるには与党の主要代議士を脅し、選挙運動を控えさせるのが効果的だと思った。反省している」と供述した。

中川秀直氏
07年参院選で当選のバラを付ける自民党の中川秀直幹事長(当時)

 逮捕容疑は脅迫罪だったけど、より重い公職選挙法違反での起訴になってきました。新聞記事を読んだ時点では、危険な香りがする“とんがった”人かと思ってたけど、刑務官に連れられて入廷してきた被告人は、普通のおじさん。外見では断言できないけど、人の良さそうなおじさんです。メールの内容とのギャップに驚かされます。

 検察官の冒頭陳述によると、中川幹事長(事件当時)に対しては、「暴走政治の首謀者。選挙演説のとき、必ず刺されるぞ。のぼせて歩くな」「年金問題に相当自信があるようだな。バカ総理の顔見たか。国民を甘く見るな」「長崎市市長のように地獄に落とす。安倍のバカにも伝えとけ」などのメールを送った、と。

 塩崎官房長官(当時)には「暴力内閣の影武者。必ず天罰が下る」「今後の選挙、刺されないよう気をつけろ。国民をバカにする首謀者野郎」「独裁国家を創る安倍の弟子」などなど。

 北側公明党幹事長には「選挙の遊説、気をつけろ。必ず刺されるぞ。忠告しておく」「国民をなめる悪徳野郎」などのメールを送信した、と。

 で、検察官が警察での調書を朗読です。

 検察官 「参院選で、自民党の候補者が1人でも多く落選になり、民主党の候補者が1人でも多く当選するように願っていた。そのためには、中川幹事長の応援演説を妨害すればいいと考えた。私は常々、安倍内閣が格差社会を広げていることや延長国会で法案を強行採決するのは止めてくれ、と腹が立っていた。今回の参院選で、自民・公明の連立が負け、民主党が勝利すればホントの民主主義国家になると思った。刺し殺すつもりはありませんでしたが、中川幹事長に1回でも応援演説を減らしたかった」。

 と、検察官個人の主張かと思うほど、堂々たる読みっぷり。ここまで、事細かに読むのは珍しいな。重罪事件のときはよくあるけど。

 被告人の奥さんが情状証人として出廷し、「パソコンは止めさせます」と今後の監督を約束していました。そして、被告人質問です。被告人の同世代と思われる弁護人が質問します。

 弁護人 「(傍聴席に座っている被告人の妻・息子を見ながら)家族も苦しんでるんですよ…」
 被告人 「…はい」
 弁護人 「もちろん、政治家の方もね」
 被告人 「はい…」
 弁護人 「民主主義を壊したのは、あなたですよ! 分かってます?」
 被告人 「はい」

 この国の民主主義って壊れてたの? ニュースではやってなかったけど。っていうか、大げさな弁護人だ。

 弁護人 「何に対して、そんなに腹立ってたんですか?」
 被告人 「延長国会で強行採決するのが…」
 弁護人 「こんな議事の進め方では、民主主義国家がめちゃめちゃになっちゃう、と。でもね、こういう脅迫するようなメールを送ってね。(逮捕前に)報道されましたよね、自民党の人が困ってるって。それでも止めなかったのはなぜですか」
 被告人 「私じゃない、と。同じことしてる人はたくさんいるんだな、と」
 弁護人 「え? たくさんいるって、ねぇ。7月1日の毎日新聞にも載ってましたよ。自分が送ったメールとは思わなかった?」
 被告人 「少しは思いましたけど、思いませんでした」
 弁護人 「意味分かんないよ、どっち?」
 被告人 「(自分と)同じ人がいると思ってました」

 当時のマスコミ、世論の与党バッシングはものすごかったし、被告人と同じような思いを抱いてた人は多いだろうけど、自分と同じことやってる人がたくさんいるだろうという考え方は、なんとも。

 弁護人 「大体さ、自宅のパソコンからメール送ったら、すぐバレると思わなかったの?」
 被告人 「(自分のメール)アドレスがバレるとは思わなかったので…」
 弁護人 「そんなこと思ってたの? ホントのこと言ってよ。だって、FAXでも(自分の)番号出るよぉ」

 なぜに例えで、FAXが? それには理由があったんです。

 弁護人 「名前もさ、“織田信長”とか“水戸黄門”で最初は送ってたのに、中川さんには本名で送ってんじゃない。バレるでしょ」
 被告人 「気づきませんでした。パソコンが初歩なんで」
 弁護人 「これだけの文章打てる人が、初心者ってことはないよ」
 被告人 「いやいや…」
 弁護人 「だって、政治家のホームページ開いているじゃない。私なんかパソコン使えないし、ホームページも開けないよ」
 被告人 「…検索すれば出ますから」
 弁護人 「知ってんじゃなぁーい」

 パソコン初心者(被告人)とパソコン未経験者(弁護人)の会話です。弁護人にとっては、FAXという昔からある機械ですら自分の番号が出るんだから、未知で最新の電子メールで自分のアドレスが出ないはずがない、という考えなんでしょう。ゆえに、脅迫のメールは送信元がばれてるから、本気じゃないって主張なんじゃないでしょうか。そして、個人的にも気になる重要な質問です。

 弁護人 「長期間、身柄を拘束されているけど、最近のニュースは?」
 被告人 「知りません」
 弁護人 「ラジオ聞けるでしょ、新聞も読めるし。ホントのこと言ってよ」
 被告人 「あ、はい。その程度なら知ってます」
 弁護人 「参院選では自民党が惨敗してね、安倍さんも辞めて、おととい新しい内容に代わったんだよね。(犯行当時の)あなたの希望、思い通りになったのよ。これについてはどう思ってるの?」

 この事件の根っこですからね。被告人の答えが非常に気になります。すると、

 被告人 「迷惑かけたという思いでいっぱいです。ホントに申し訳ありません」

 これは答えになってるのか? 自分のメールのせいで、自民党が惨敗したと思っているのか。どっちにせよ、反省はしてるみたいだけど。

 弁護人 「今後ね、波があるからね、どうなるかわからないよ。民主党が与党になるかもしれない。そしたらね、民主党だってね、ボロが出てくるんだよ。そのときは民主党に同じようなメール送るんじゃないの?」
 被告人 「いえ、送りません」

 なぜか、民主党にボロが出ることを断言している弁護人。とにかく、被告人は2度と同じとことはしないと約束してました。そして、最後に被告人と同世代の弁護人が遠くを見るような目をしながら、

 弁護人 「パソコンなんか出てきたの、ここ数年の話でしょ。昔は、パソコンなんかなくても、みんな生きてきたじゃない。今、ニュースなんかみるとさ、ネット詐欺とか闇の職安とか、犯罪に使われてるでしょ。もう、パソコンはやらないね?」
 被告人 「はい。もう2度とやりません」

 と、脱パソコン宣言をして終了。ネットに闇の部分があるのは否定しないけど、道具をそんなに責めなくてもなぁ。次は検察官からの質問です。

 検察官 「今まで政治家のホームページにメールを送ったことは?」
 被告人 「ありません」
 検察官 「初めてで、こんなに激しいというか、ひどいのを送ったのはどうしてですか?」
 被告人 「延長国会を見てから、民主主義のやり方じゃないと腹が立ってしまって。審議もせずに、強行採決するというのは…」
 検察官 「あれは審議してないんですか」
 被告人 「ほとんどしてないと思います」
 検察官 「なんで分かるんですか?」
 被告人 「朝のワイドショーとかでもやってましたし」

 よりによってワイドショーか。ま、報道で知るしか方法はないんだけどさ。とにかく、繰り返される強行採決に、よほど怒っていたんでしょう。

 最後は、裁判官からの質問。

 裁判官 「与党の国会運営が間違ってるなぁ、と国民が思えば、野党に票が流れるだろうし。選挙ってそういうものなんじゃないですか?」
 被告人 「…はい…」
 裁判官 「民主主義っていうのをホントに理解してますか?」
 被告人 「…分かってます」

 単純だけど、深い質問で終了。この後、検察官が懲役2年6月を求刑して、閉廷でした。

 民主主義って、言論の尊重ってのもあるでしょ。もちろん、被告人のやり方は間違ってるけど。

 難しいとこだよなぁ。実際、国民が意思表示できるのって、投票くらいのもんだからねぇ。元小学校教師だけあって、民主主義国家である日本の未来を危惧したんでしょうね。正義感背負って。でも「殺す」と脅して気に入らない相手の言論を封殺する行為は民主主義の否定以外の何ものでもないのは言うまでもないでしょう。そもそも強行採決に怒ったというけど、民主主義の原則は多数決。何より、前回の総選挙で自民党に多数を与えたのは、国民だから。すべて全会一致の議会は民主的な選挙が行われていない独裁国家の特徴だよ。小学校の先生がそんな簡単な理屈が分からないかな。

 被告人の心配をよそに結果は出た。まだ、民主主義は保たれているらしい。汚れた被告人のやり方を用いなくても、充分に美しい国じゃないか。…多分。

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)

阿曽山大噴火・写真

 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。

 パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。



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