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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」

患者より子供?の小児科医師の犯罪

 先週発売の雑誌「PRESIDENT」に“頭のよい大人になる課題図書135冊”って企画が載ってるんですよ。その中で、元東京地検特捜部で現在は弁護士の葉玉匡美氏が、司法に関する15冊の本を選出してるんだけど、そのうちの1冊が俺の「裁判大噴火」なのよ。なんで、1冊だけおちゃらけ本が混じってんだ? あの本読んでも頭のよい大人にはなれないと思うんだけどね。選んでもらっただけありがたい。でも、できれば新刊を取り上げて欲しかったなぁ。

 先週はこれといった裁判がなかったので、先々週金曜、9月26日に行われた柚須慎被告人(37)の裁判の話。罪名は不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反。05年12月9日に同僚医師への携帯電話メールが自分に転送されるように無断で設定したとして、警視庁ハイテク犯罪対策総合センターに不正アクセス禁止法違反などの疑いで07年7月に逮捕された、という事件です。

 逮捕後に「同僚の言動が気に入らず、メールの中身を見て仕返ししたいと思った」と供述。転送設定には暗証番号の入力が必要だが、同僚の生年月日と同じ番号を入力したところ一致したという。1年半で二千数百回閲覧し、メールの内容を周囲にほのめかしていたと、伝えられましたね。

 これはありそうでない変わった事件ですね。メールを見て仕返しするって動機もなんだかなぁって感じですね。

 ケータイの電話会社に対してなんだけど、そもそもケータイのメール転送機能って意味あるの? パソコンのメールをケータイ電話に転送するなら分かるけど、持ち歩いている電話に届くメールを転送する必要性が分からない。さらには、それを利用して他人のメールを見たがるってのもよく分からないんだけどさ。

 まずは、8月22日の初公判。起訴された罪名は、報道されてた通りの不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反。さらに私電磁的記録不正作出同供用でも起訴されていました。

 他人のメールを勝手に自分のとこに転送してのぞき見るのは、常識的に悪いことってのは分かるけど、刑法に照らし合わせるとこんな罪になるんですね。で、検察官は訴因の変更があるとのことで、この日はあっさり閉廷。

 そして、9月26日の第2回公判。前回の罪名に加えて、電気通信事業法違反で起訴。個人的にはこの罪名の裁判は初です。

携帯
ケータイは、せめてこういう使い方で…(写真は本文とは関係ありません)

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は以前から気に入らなかった被害者の机の上に、被害者のケータイが置いてあることに気づき、生年月日から予想してパスワードを打った。すると、一致したため「女性関係などの情報を得て、公表してやろう」と思い、被害者のケータイメールの転送先を自分のヤフーメールあてに設定。05年12月9日から07年4月8日までの間、2445回に渡って、被害者に届いたメールを閲覧していたとのこと。被害者が自動転送の設定になっていることに気づき、発覚した。

 取調べで被告人は「私は被害者の、誰にも相談せずに決めるところが気に食わず、個人的な秘密を知って、ギャフンと言わせたいと思った」と、犯行の動機を述べているらしい。まずは、被告人の奥さんの証人尋問です。

 弁護人 「旦那さんは、被害者のことで悩んでたんですか?」
 証人 「はい」
 弁護人 「元々、被害者とはどんなお付き合いでした?」
 証人 「家族ぐるみでディズニーランドに行ったり、バーべキューやったり、徐々にやらなくなりましたけど」

 昔は被告人と被害者は仲良しだったようです。

 弁護人 「示談の件なんですが、相手の示談の条件はなんですか?」
 証人 「住居と職場を関東以外にしろ、と」
 弁護人 「了承しましたか?」
 証人 「子供が小学生ですので」
 弁護人 「それで、賠償金は支払いました?」
 証人 「はい」

 このやり取りを聞くだけで、被害者が相当に怒っていることが想像つきます。今後はパソコンを皆が集まるところに置いて監督していくと約束して、奥さんの証人尋問終了。
 次は、被告人質問です。まずは弁護人から。

 弁護人 「起訴状の内容に間違いありませんね」
 被告人 「はい、間違いございません」
 弁護人 「動機は何ですか?」
 被告人 「被害者との人間関係を直そうと思いました。被害者は普段から、あいさつがないとか“ありがとう”とか感謝の言葉がないとか、そういうところがありまして…」
 弁護人 「それは何か仕事の上で障害ありました?」
 被告人 「直接はなかったですが、病院というのはチームワークですから、“ありがとう”とかあいさつとか、そういうことも大事だと思ってましたので」

 この被告人の言い分が本当なら、被害者は人付き合いが下手だったんでしょう。医師の中でも浮いていたのかもしれないですね。

 弁護人 「それでどうしようと?」
 被告人 「日頃の行動を監視するには何かないかと。それで、メールを見よう、と」
 弁護人 「メールを見て、具体的にどうしようと?」
 被告人 「考えはなかったんですが、人間関係が何か変わるんじゃないか、何か分かるんじゃないか、と」

 そりゃあ、何か分かるどころの騒ぎじゃないと思うけど。当時の被告人としては、人間関係を良くするため、チームワークを固めるためによかれと思ってやっていたようです。そして、その行動が明らかになるのです。

 弁護人 「メールを見て、何か動きました?」
 被告人 「日ごろの女性関係の乱れとか、あいさつが少ないことを注意しました。でも、何も代わりませんでした」
 弁護人 「さらに、被害者の知り合いの女性に会って、被害者のことを話していますね」
 被告人 「関係のあった親しい女性に言えば、彼(被害者)も分かってくれるんじゃないか、と」
 弁護人 「そんなことしたらバレると思いませんでした?」
 被告人 「バレてもいいから、関係が良くなれば、と」

 バレたら絶対に関係は悪くなるでしょ。被害者がメール見られていることを知って、「そんなに俺と病院のことを考えてくれていたのか!」なんて言うわけないもの。

 弁護人 「仕事のこと聞きますけど、医師としては何を?」
 被告人 「内科医、あと小児科です」
 弁護人 「勤務先の病院の方は?」
 被告人 「退職しました…」
 弁護人 「今後、仕事はどうするつもりですか?」
 被告人 「できる限り、医師として働きたいと思っています」
 弁護人 「そうですか。今の気持ちは?」
 被告人 「幼稚な行動でたくさんの人に迷惑をかけて、被害者にはお詫び申し上げたいと思っています」

 小児科の先生が、自分のことを“幼稚な”と非常に皮肉な反省の弁を述べて、質問終了。次は、検察官からの質問です。

 検察官 「人間関係を良くしようっていうのと、メールをのぞき見するのが、なぜ結びつくんですか?」
 被告人 「あいさつがないとか、お礼がないとか、自分の身に覚えのないことをペラペラしゃべられたり、イヤな思いをさせられたというのもあって」
 検察官 「そういう場合、本人や病院長に相談すればいいんじゃないですか? それが大人の対処法では?」
 被告人 「いろんな人に相談すべきだったかな、と」

 小児科の先生に対して、大人のあり方が問われています。なんて皮肉な裁判なんだ。そして、検察官は単刀直入に質問します。

 検察官 「メールを見てたのは、興味本位だったのでは?」
 被告人 「…それだけではありません!」

 興味本位の部分もあった、と。どう考えてもそうだよなぁ。犯行時、暴走してた感は否めない。最後は裁判官からの質問です。

 裁判官 「あのー、(犯行が)あまりに子供っぽくてがく然とするんだけど」

 またもや…。

 裁判官 「相手のことをいろいろ言っているけど、(あいさつがないとか)そんなことより、あなたははるかに酷いことをやってるでしょう。レベルが違いますよ。あなたがやったのは犯罪なんですよ。…んー、今、プライバシーとか重視されているでしょ。そういう人が医師やっていけるのかなぁ、と」
 被告人 「ちゃんとやっていきます」

 質問というよりは、裁判官の説教ですね。そして、最後に、

 裁判官 「言葉の端々に相手が悪いというのが垣間見えるんだけど、反省してるんですか?」
 被告人「はい、反省してます!」

と、反省の言葉を述べて終了。10月12日に。被告人に対して、懲役1年6月、執行猶予3年の判決が言い渡されました。

 被害者がどんな人なのかはわからないけど、一番コミュニケーション下手なのは、被告人なんだよな。それに気づいてくれればいいのだが。人間関係の悩みなんて、職場が替わってもなくならないからね。非常に珍しい犯罪なんだけど、ケータイが1人1台の時代では他人事じゃない。皆さんも今一度、ケータイの転送先を確認してみたらいかがでしょう。

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)

阿曽山大噴火・写真

 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。

 パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。



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