- 社会メニュー
-
阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
犯行のヒントは左とん平?
先週水曜(10月24日)、裁判員の辞退が認められる理由を定めた法務省案が公表されたんです。以前から「憲法違法では?」と議論されていた“思想信条”を理由にする辞退は明記せず、「参加によって、自己または第三者に身体上、精神上、経済上の重大な不利益が生じると認められる場合」に辞退が可能としたようです。かなりアバウトな条件だなぁ。難しいとこではあるんだけどね。思想信条の自由で辞退をOKしたら、限りなく立候補になっちゃうしね。かといって強制ってわけにもいかないし。
それはさておき、ちょっと宣伝。来週日曜日の11月4日に中央大学の学園祭に出ます。13時半から多摩キャンパスにて。“自己または第三者に身体上、精神上、経済上の重大な不利益が生じない”方は来てくださいな。裁判の話をする予定なので。
今回は10月22日に行われた斉藤輝夫被告人の裁判の話。罪名は詐欺。事件の中身を新聞から紹介しましょう。
居酒屋店員の斉藤輝夫(62)は、07年8月、JR東京駅に停車中の中央線車内で、無職男性(72)に銀行の封筒に入った偽1万円札の束を見せ「誰かが競馬に行く金を忘れたんだ。山分けしよう」と提案。「感謝の気持ちがあるなら、今日退院した自分の長男に小遣いをあげてよ」と偽り、現金1万1000円をだまし取ったとして、詐欺容疑で逮捕された。調べに対して「生活、遊興費のためにやった。被害届を出しそうもない年配の男性を狙った」と供述。
このニュースを聞いたとき、何をどう、だましてるのか、詐欺の手口がまったく分からなかったんですよ。事件の中身が理解できないというか。それで傍聴に行ったんだけど、これがまぁ。
検察官の冒頭陳述によると、被告人は1万円札の表面だけを数枚コピーし、文庫本を1万円札と同じ大きさに切って、偽札の束を作成。その札束を紙袋に入れ、電車の網棚に置く。高齢でひとりの客の前で、紙袋を落とし、「これが年金や給料でもらった金なら届けなきゃいけないけど、競馬のための金だから、とりあえず降りよう」と、電車の外に被害者とともに出る。そして「80万円あるぞ。20万円ずつ分けよう」と40万円(偽札)を被害者のバッグの中に押し込んだ後に、「息子の退院が今日だから、感謝の気持ちがあるなら」と金を要求。こうして1万1000円をだまし取ったとのこと。冒頭陳述を聞いてもよく分からないんだけど、被害者もわけが分からないうちにだまされたって感じなんでしょうか。
「じゃあ、山分けした金の中から10万円やるよ」と言われたら、どうするのか。
事件の内容より、驚きなのが被告人の過去。なんと平成7、10、16年にまったく同じ手口の犯行で逮捕されてて、今度は刑務所から出所してから2カ月の犯行なんです。逮捕までに5人から同じ手口で金を騙し取っていたらしい。反省していないと言うか、飽きないと言うか。
裁判は、被告人とともに居酒屋を経営している内妻が情状証人として出廷。そして被告人質問です。
弁護人 「犯行当日、何時間くらい物色というか、被害者を探していたんですか?」
被告人 「4時間くらいです」
弁護人 「その間に何人ぐらい?」
被告人 「今回の被害者含めないで3人」
事件に関する質問はこれだけ。このあとは、情状です。
弁護人 「なんでこんな犯行思いついたんですか」
被告人 「えー、昭和62年に甲府刑務所でテレビを見てまして。夜のテレビドラマで俳優の左とん平がマージャン卓に偽札をおいて、というのを思い出して」
何のドラマかわからないけど、刑務所内で見たドラマで犯行を思いつくなんて。こんなところで名前を出された左とん平さんも、いい迷惑だろう。
![]() | |
| 裁判で名前を出され大迷惑の左とん平さん。芸能界でも人格者として知られる | |
弁護人 「出所から2カ月での犯行なんですが、なぜまたやってしまったんですか?」
被告人 「(内)妻が困っていたので」
弁護人 「でもこんなことになったら、かえって奥さんを悲しませることになるとは思いませんでした?」
被告人 「こんなに早く捕まるはずじゃなかったんで。必要なのは(滞納している居酒屋の賃料)30万円ですから、んー、こんな言い方すると裁判官様に怒られるかもしれないですけど3カ月くらいだけ、短い間だけと思ってやってしまいました」
報道では遊興費欲しさでの犯行となっていたんだけど、内妻とやってた居酒屋の賃料滞納が原因のようです。それにしても「こんなに早く捕まるはずじゃ」って。さらに目標金額も定めてるとは。
弁護人 「いずれ社会復帰するわけですが。今後どうするつもりですか?」
被告人 「妻とも話したんですけどね、われわれの年齢、妻の健康状態、それを考えると(居酒屋は)閉店するかもしれないですね。だから、役所のお世話になると思います」
弁護人 「あなたの今のお気持ちは?」
被告人 「ただただ申し訳ない気持ちで、更正したいと思っています」
弁護人 「もし、万が一、再犯したらね。年齢も年齢ですから、刑務所の中で獄死するかもしれないわけです」
被告人 「もし、今後犯罪を起こすことがあれば、社会とも妻とも今生の別れと思っています」
と、再犯しないことを誓って質問終了。次は検察官から。
検察官 「今までとまったく同じ手口なんですけど、前回は何年服役しました?」
被告人 「3年です」
検察官 「その前は?」
被告人 「1年10カ月」
検察官 「どんどん厳しくなってますよね。(今回の刑は)覚悟してますね」
被告人 「してます」
そして、事件に関しての質問です。
検察官 「偽札なんですけど、なんで白黒のコピーなんですか?」
被告人 「あのー、(精巧なものを作ると)通貨偽造になってしまうので」
検察官 「あ、それであえて白黒なんですね」
ちゃんと被告人は捕まった時のことも考えて偽札を作っていたようです。
検察官 「前回の裁判でも『奥さんのためにやった』と答えていますね」
被告人 「はい」
検察官 「居酒屋の売り上げも悪くなってたんですよね。それなのに、なぜ30万円でやめようと思ってたんですか?」
被告人 「30万円で一区切りつけて一生懸命やろうと」
検察官 「さっき『こんなに早く捕まるはずじゃじゃなかった』」と答えていたけど」
被告人 「平成6年、10年、12年、16年とですね…」
と、冒頭でも明かされなかった平成12年の前科を含め、長々と語ろうとしたら、検察官が割って入ってきて、
検察官 「今までの経験で、と」
被告人 「はい」
今まではなかなか捕まらず、稼げていたんでしょう。そして、最後に、
検察官 「責任を感じてやったと。こんなことしても奥さん喜びませんよ」
と、ニヒルに締めて終了。この後、検察官は被害者が被害届を出しにくいことを利用した悪質な犯行であるとして懲役3年を求刑していました。
被告人の言い分が本当なら、居酒屋の家賃のための犯行と。内妻と2人でやっているような感じだったから、内妻のための犯行なわけだ。
でも、この内妻と一緒に生活を始めたのは平成8年。一緒に暮らしてから被告人は3回も刑務所に行ってるんだよな。その間、居酒屋はどうなってたんだろう。内妻1人でがんばってたのかね。だとすれば、被告人が詐欺で稼がなくても、十分やっていけそうな気がするんだけど。
被告人の言葉を信じて、2度と同じことはしないと思いたいけど、同様の被害にあったら、すぐに警察に連絡を。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。
パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。
