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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」

検察官が入ってしまったタコツボって…

 来年1月公開の映画「ビー・ムービー」の試写会に行って来たんだけど、こりゃすごい。

 人の言葉がしゃべれるハチが主人公なんだけど、人間にハチミツを奪われてるとして、法的手段で争うって話。ハチが主役の裁判映画なんて初でしょ。しかも、あのドリームワークスの映画なんです。訴訟国家アメリカだからこそ、出てくる発想なんでしょうか? ただ、裁判の話がメーンじゃないこともあって、チラシには“裁判”の文字は1つも載ってない。日本人にとっては裁判というものが、いまだとっつきにくいイメージがあるからなのかね?

 ついでに、とっつきにくいイベントの宣伝。今週木曜日(11月15日)午後7時から「東京大噴火!」ってイベントに参加します。場所は中野ZERO小ホール。入場料500円。君が代やら日の丸やら…、と教育の現場にたずさわる人や弁護士の方々が集まって話し合うらしい。なぜ、オレが呼ばれてんだか。興味のある方はどうぞ。

 先週はコレといった裁判がなかったので、3週間程前の10月26日の傍聴記。被告人は、斉藤諭。罪名は有印私文書偽造・同行使と虚偽公文書作成・同行使。報道された内容や起訴状から時系列で追うと、こんな感じ。

 3月23日 東京地検刑事部の検事斉藤諭(当時40)は、書類送検された強制わいせつ事件について、告訴した女性の申し出もないのに、署名、捺印を捏造して告訴取り下げ書を偽造した。

 3月27日 不起訴裁定書も捏(ねつ)造し、上司に提出。

 8月14日 東京地検刑事部に所属していた検事が、刑事告訴した本人の了解を得ずに告訴取り下げの書類を捏造していた疑いが浮上し、捜査に乗り出したことが分かったと報じられる。取り下げられていたのは、警視庁が告訴を受け、東京地検に送られていた事件。告訴人から捜査の進展状況などの問い合わせがあり、同地検で捜査していたところ、告訴取り下げの手続きが取られていた。告訴人は「取り下げていない」と主張していると報じられた。

 8月21日 告訴取り下げ書を偽造したなどとして斉藤諭検事を在宅起訴。起訴に先立ち、法務省は斉藤検事を懲戒免職処分にした。

 調べに対し「人事異動を控えていたので、未処理の事件を後任に引き継ぐのを避けようと思った」と事実を認めている。犯行の翌月には札幌地検への異動が内定していたが、16件の未処理事件を抱えていたという。

 最近の賞味期限の改ざんとか耐火性能偽造よりも、もっと騒ぎになってもいいと思うのだけどね。ちょっと種類は違うといえ、この手の事件では一番ショッキングだし、公務員の不祥事としてもかなりのものなんだし。

 ここから裁判の話。冒頭陳述によると、被告人は平成3年に司法試験に合格し、平成6年に検察官になる。平成17年4月から東京地検に配属された。

 調べに対し、「後任者に長期未済引継ぎたくないと思った。親告罪である本件を取り下げれば、処理したという外聞が可能になると思った」と答えているそうな。

 捏造した理由はわかったけど、その先が不明ですね。未処理事件を残したまま異動すると何か不都合があるのかね。ひとつでも減らすとメリットがあるとか。地検の風潮というか内部のことが明らかになると思ったんだけど、全く語られず。

 そして、被告人の友達が証人として出廷です。

 弁護人 「あなたの職業はなんですか?」
 証人 「弁護士をしていおります」

 元検察官の情状に弁護士が出廷です。何事かと思ったら、

 弁護人 「友達でしょうから、(被告人のことを)斉藤君と呼びますね。斉藤君と知り合ったきっかけは?」
 証人 「司法試験の勉強会で知り合いまして、一緒に合格しました。修習同期生です」

 同期生代表として情状にやってきたようです。

 弁護人 「ニュースで事件を知って、どう思いました?」
 証人 「まず…信じられない…。曲がったことが嫌いで不正をする人間ではないと思っていたのでショックでした」
 弁護人 「面会に行って斉藤君に久しぶりに会ってどんな感じでした?」
 証人 「やつれてて、精神的に落ち込んですろかなと。一言で言うと、暗い感じがしました」
 弁護人 「なぜ、こんなことをしたと思いますか?」
 証人 「彼は責任感の強い人間ですので、ひとりで全うしようと思ったのかなと」

 これ以上詳しいことは語られなかったんだけど、自分の担当した事件は自分で処理すべきっていう暗黙のルールでもあるのでしょうか。今後は被告人を支援していきたい等々述べて、尋問終了です。そして被告人質問。

 弁護人 「これから君のことを斉藤君と呼ぶけど、この場で君と会うのは非常に残念なんだけど…。(弁護する)立場なので…」

 と、さびしそうな弁護人。どうやら被告人が修習生のときの先生らしい。自分が面倒を見た修習生だったから、弁護人を買って出たんだろうけど、なんというドラマチックな裁判なんだ。

 弁護人 「こんなことしてどう思ってますか」
 被告人 「大変申し訳ないことをしたと反省しています。被害者(告訴人)に対しても申し訳ないですし、検察に対しても信頼を失墜することをしてしまいました。どのような処罰も受けたいと思っています」
 弁護人 「原因はなんですか」
 被告人 「端的に申しますと、事件の処理をしなければならないというのがありまして、後先考えずにやってしまったと。おそらく、相手(告訴人)のことを思いやれなくなっていた精神状態だと思います」
 弁護人 「うつ状態だったと」
 被告人 「今から考えるとそうだったかなと」

 弁護人 「上司に相談してれば、と思うけど」
 被告人 「性格として何でも自分で抱え込んでしまいまして、自分で処理しなければ、なんとかしなければと。その時はタコツボに入ってしまったような状態で、広い視野を捨てずにやってしまったのかなぁと」

 うつ状態だったのでやってしまったという主張のようです。精神状態よりも、“事件の処理をしなければならない”の方を聞き出して欲しいんだけどね。しかし、弁護人は、

 弁護人 「面会で久しぶりに君に会って、あんなにはつらつとしていた学生時代と比べると、落ち込んだような感じでね。それで病院に行く事を勧めたんだけど…結果は?」
 被告人 「おそらくうつ状態だったのではないかと。病院の先生は“私が(当時)診断していればドクターストップをかけていただろう”と言ってました」
 弁護人 「自己管理も検察官の仕事でしょ。自分で行くべきでしたね。あなたの責任でしょ。言い訳にしたくないよね」
 被告人 「…はい」

 今後は法曹界から離れて心の勉強をしたい、仕事でストレスを溜めている人を助ける仕事がしたい等々述べて、弁護人の質問は終了。次は検察官からの質問です。

 裁判官 「えーー、検察官、何かありますか」

 そりゃあるでしょう。ある意味、検察も被害者なんだから。烈火のごとく怒るかと思ったら、

 検察官 「じゃ、一言だけ。多くの検察官が悲しく淋しいと思っていることだけ分かって下さい」

 と、小さく弱々しい声で述べて終了。被告人が元身内なのはわかるけど、そんなセンチメンタルなこと言われてもね。裁判はお別れ会の場じゃないんだから。裁判官にいたっては、質問ゼロ。

 なんか気持ち悪~い裁判だなぁ。

 この後、検察官は「刑事司法に対する社会の信頼を大きく損なった」として懲役2年と偽造した告訴取り下げ書の没収を求刑。

 これに対し、弁護人は「判決文の中に、被告人が将来、他の仕事についたときに役に立つ言葉を添えていただきたい」と弁論で述べてました。法曹界の先輩からも一言お願いしますってことなんでしょうか。珍しい弁論です。何か執行猶予がつくのを前提にしているような感じだけど「刑務所で矯正して生まれ変わりなさい」という言葉だったらどうするんだろ。ちなみに判決は11月20日。とにかく、検察庁というところはキムタクみたいな検事ばかりではない、ということだけは、はっきりと分かった公判でした。

 それにしても、もう少し根本的な動機に迫ってほしかったなぁ。柵の向こう側にいる弁護人・検察官・裁判官にしてみれば、未処理事件を抱えてる検察官の苦しみが理解できるから、その点については質問しなかったのかね。

 被告人の暴走なのはわかるけど、個人の資質の問題を問うより、再発防止のために組織・システムとしての問題を問う方が有意義だと思うんだけどね。正義感の強い人間が不正をしてまで保とうとした体裁って何だったんだろう。

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)

阿曽山大噴火・写真

 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。

 パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。



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