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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
コンビニ強盗のあきれた犯行理由
先週火曜日(12月4日)に「捜査段階の取調べの様子を録音・録画する法案を、民主党が参院に提出」ってニュースがあったんです。いわゆる、捜査の可視化ってやつですね。その法案は懲役証拠能力を認めない、という内容らしい。
さらに、先々週には、大阪地裁で裁判官が「録音・録画など客観的な証拠が提出されていない」として自白調書の大半を採用しなかったというニュースも。
警察庁も来年度から取り調べ状況を監視・監督する部署を新設するらしいから、取調べの録音・録画は真実味を帯びてきましたね。撮影に関しては、捜査側はもちろん、弁護側でも反対してる人がいるみたいだけど、公平だと思うんだけどね。
さて、今回は、12月6日(木)に行われた西本賢一被告人(61)の裁判傍聴記。罪名は、強盗、銃砲刀剣類所持取締法違反。最近よく聞くコンビニ強盗ですね。当時の新聞記事から状況を再現すると、10月15日午前3時45分ころ、セブンイレブン江東亀戸2丁目店で男性店員(33)に包丁を突きつけ、現金約6万7000円を奪って逃走。追いかけてきた別の男性店員(26)に取り押さえられ、強盗の現行犯で逮捕された。調べによると、西本はパンを買うふりをしてレジに近づき、店員に刃渡り14・5センチの包丁を突きつけ、「金を出せ」と脅迫。金を奪って逃走する時に、店の奥にいた店員にカラーボールを投げつけられたが当たらなかった。だが、約110メートル先の路上で追いつかれ「金を返せ」と一喝され、観念したという。
裁判を傍聴していると、コンビニ強盗って多いんです。もちろん、すべての事件が報じられているわけじゃないんだけど、本件は報道されたんですね。多分、この事件の10日ほど前に大阪府寝屋川市のセブンイレブンでアルバイト店員が刺殺される強盗殺人事件が起きた関連からだと思われます。
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| 狙われるコンビニ。写真の堺市のセブンイレブンも今年11月に被害に | |
初公判が行われる法廷に行くと、1枚の紙が貼り出されていました。それは、“被告人が疾患のため、空気感染の恐れがありますので、傍聴人はマスクを着用してください”の一文。これは、被告人が結核などの空気感染の可能性がある場合に行われる、マスク必須の裁判です。
法廷入り口に置いてある鳥のくちばし型のマスク(裁判狂時代=河出書房新社=61ページ参照)を取って着席。周りを見ると、被告人はもちろんのこと、裁判官や書記官、30人ほどいる傍聴人も含め、法廷内の全員がマスク着用です。…と思ったら、被告人の一番近くにいる弁護人がマスクをしていません。空気感染を気にしていないのだろうか。それは後ほど明らかになるんだけど。
検察官の冒頭陳述によると、被告人は建設関係の日雇い仕事をしていたが、仕事がなくなり、今年の9月に無職になる。預金などで生活していたが、犯行5日前の10月10日には所持金が1000円に。12日には100円ショップで果物ナイフを購入し、犯行日の15日まで何度も強盗のシュミレーションをしていたとのこと。そして、犯行当日。コンビニを何軒か回り、お客が1人もいなかったので、被害店に強盗に入ることを決意。パンを2つレジに持っていき、店員がビニール袋にパンを入れようとしているときに、被告人は果物ナイフを突きつけながら「札を全部、その袋に入れろ。100円玉も全部入れろ」と脅迫。後は、報道のとおり、逃走したものの、店員に取り押さえられた、というのが事件の詳細です。
そして、被告人質問です。まずは、弁護人から。
弁護人 「(防犯カメラの写真を被告人に見せながら)防犯カメラにばっちり写ってるねぇ。分かってたでしょ」
被告人 「考えなかったですね」
弁護人 「(防犯カメラがあること)分かってたでしょ」
被告人 「いえ、知らなかったです」
3日間、シュミレーションしてたはずでは。
弁護人 「悪いことしたと思ってます?」
被告人 「完全に、やったことは悪いわけですからね、それは…」
と、だんだん、小さな声になる被告人。すると、裁判官が、
裁判官 「マスクのせいで声が聞き取りにくいので、大きな声で話してください」
と、一喝。マスクのせいというより、単純に声が小さくなってもごもごしただけのような気もするけど。
弁護人 「反省してますか?」
被告人 「反省しております。2度とやってはいけないってね」
そして、マスク着用の裁判になっている理由が質問されます。
弁護人 「体、どこが悪いんですか?」
被告人 「目が悪いってね」
弁護人 「目? ほかには?」
被告人 「月に2回くらい、医者に診てもらってるんですけどね」
弁護人 「お医者さんはなんて言ってるの?」
被告人 「昔の結核がね」
弁護人 「結核が?」
被告人 「出てないってね」
病気のことを情状にするのはよくあるんだけど、現在は健康状態良好のようです。弁護人はそれを知っていたからマスクをつけていなかったんですね。それならマスク準備しなくてよかったように思えるんだけど。次は検察官から。
検察官 「9月に路上生活を始めたということですけど、ほかには犯罪はしてないですか」
被告人 「労働者の寄せ場で炊き出しもらったりして、生活しててね」
検察官 「無職になった9月は所持金いくらでした?」
被告人 「3、4000円ですね」
すると検察官は驚いた顔をして、
検察官 「え!それで1カ月暮らした!」
被告人 「ほとんどお金使わないんでね」
1日100円で細々と生活していたようです。
最後は裁判官から、
裁判官 「所持金が少なくなったのはわかったのですが、強盗という手段を選んだのは、なぜですか?」
被告人 「動きようがなくなっちゃったわけでね、仕事もなくってね」
裁判官 「んーー、でも大胆な犯行ですよね」
被告人 「手持ちがなくなったわけですから」
裁判官 「お客のいないコンビニエンスストアを探したのはどうしてですか」
被告人 「ほかの人を巻き込まない方法を考えてましてね」
裁判官 「果物ナイフを購入してから強盗の方法を考えていたということですが、その数日間、迷いはありませんでしたか?」
被告人 「ありますね、それは」
裁判官 「なぜ、この日にやってしまったんですか」
被告人 「ちょうどいい時間に目が覚めましてね、ちょうどお客がいないもんですから」
起きた時間が犯行の最後の背中を押した理由とは。単純を通り越して文学的な動機にも思えてくるなぁ。この後、検察官が懲役5年を求刑して、閉廷。
コンビニでバイトしたことないから知らないんだけど、店員は強盗を捕まえなきゃいけないのかね。捕まえるのが正義ではあるんだろうけど、相手は凶器持ってるわけだし。今回の被告人を見ると、あまりに飄々(ひょうひょう)とした態度で、店員と犯人の間に強盗に対する認識の違いがある気がしたな。
時給で働く店員さんが危険をかえりみずに犯人逮捕に向かう勇気、正義感は本当に立派だと思うから「いい時間に目が覚めまして」なんて理由で強盗をする人間から命を奪われるなんてことは、絶対に許せないと思うね。しかし、仮にコンビニの店員は決して追いかけないと分かったら、犯罪の抑止効果が大幅に低下してしまうか。そう考えると日本の治安はこうした名もなきアルバイトの店員たちの正義感に支えられている部分は大きいのだろう。
ただ、本当に危険だと思ったら命を大事にする勇気も持っていいかもしれない。犯人を逃しても、防犯カメラの映像を警察に渡すだけで、十分正義だと思うんだけどな。今回の被告人のような強盗に対する軽すぎる認識を聞かされると、こんな連中のために危険な目に遭う店員さんが心配になるよ。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。
パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。
