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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
仕事してるぞ簡裁判事、大アマ弁護士を一喝
先週は、さいたま地検の裁判員制度広報キャラクターが発表されました。ビッグニュースなんだけど、まったく取り上げられることもないようです。で、その広報キャラクターの名前は“しらこばちゃん”。街中で「しらこばちゃん、どうよ?」とか話している人を見かけないなぁ。他の地検の広報キャラクターと比べても、かなりの仕上がりなんだけどね。それより、いつになったら全国の広報キャラクターがそろうのかが気になるね。なんで、こんなにバラバラのタイミングで発表されるんだろう。
さて、今回は12月25日に東京簡裁で行われた米畑陽一被告人(23)の裁判の話。罪名は窃盗。
TSUTAYA江戸川中央店で漫画本101冊を一気に万引きしたとして逮捕された事件ですね。報道では買い取り価格表を古本屋で事前に入手したうえ、TSUTAYAの本売り場で約30分、高く売れる本を下見。店員や客がいなくなったすきに、縦50センチ、横30センチの袋いっぱいに本を詰めて持ち出し、駐車場に積み上げると再び入店し、また万引きしていた。盗んだ人気作品は「名探偵コナン」や「花より男子」などだったという。調べに対し「借金返済に困っていた。高く買い取ってもらえるシリーズ本を狙った」と話したと伝えられました。
換金目的で本を万引きする事件って、裁判を傍聴しているとよくあるんだけど、101冊という多量の万引きは珍しいですね。しかも、価格表を見ながら盗む本を品定めとは、呆れるほかない。
検察官の冒頭陳述によると、被告人には借金があった(金額は明らかにされず)とのこと。返済のこともあり、仕事をするべきなのだが「貯金は数十円しかなかったが、まだ遊んでいたい」と考え、本件を思いつく。目標金額を2万円に設定し、30分の間に被害店で3回万引きをして、本を100冊盗んだ、というのが事件の詳細のようです。報道された101冊じゃなく、冒頭陳述によると100冊が正しいようです。まあ、だから罪が軽くなるってもんじゃないだろうけど。
ちなみに、被害金額は6万790円。これは販売価格だろうから、古本屋に売れば被告人の目標通りに2万円くらいになるのではないかと推測。
そして、被告人質問です。
弁護人 「今、どう思ってます?」
被告人 「TSUTAYAさんに迷惑をかけたことをお詫びしたいのと、今まで育ててくれた両親に対して申し訳ないです」
被告人 「100冊も盗んだことと、中学のころから利用してた店に迷惑かけたことが」
向こうは被告人が10年近く利用してたことは知らないだろうけどね。本人としては常連客だったのに、という良心の呵責(かしゃく)があるんでしょう。
弁護人 「今後、二度と同じことをしないためにはどうしたらいいんですか」
被告人 「TSUTAYAさんが許してくれるなら謝罪に行って、あとはまじめに働きたいです」
弁護人 「犯行当時は仕事してませんでしたが、それまでは4年間同じところで働いていましたよね。なぜ、やめたんですか?」
被告人 「職場の上司に暴力を振るわれて、これが毎日続くのかと思って」
弁護人 「今後、仕事はどうするんですか」
被告人 「塗装業の友人のところで雇ってくれるということなので、そこで働きたいと思っています」
弁護人 「働いてもすぐにお金は入りませんけど、どうするんですか」
被告人 「とりあえずの生活費を父親に借りようと思っています」
と、仕事先も探している等、社会復帰後の計画はできていると主張して質問終了。
次は検察官からの質問です。
検察官 「買い取り表持ってね、30分間に3回も出入りして、こんな万引き聞いたことないですよ。途中でやめようと思わなかったんですか」
被告人 「借金のことがあって」
検察官 「もし、盗みがばれなかったら盗んだものはどうするつもりだったんですか?」
被告人 「(換金して)借金の返済に」
検察官 「心痛まないの?」
被告人 「痛むんですけど、それよりも返済のことが頭にあって」
そんなに本件の動機が借金なら、弁護人が主張してくれてもよかったのに。前述のとおり、借金ができた理由も金額も明らかにされずじまい。
そして、新事実が明らかにされます。
検察 「去年、同種の犯行で罰金刑の判決受けてるでしょ。なんで、罰金を言われて(万引きを)やめないんですか」
被告人 「……」
詳細は語られなかったんだけど、どうやら被告人は1年前に罰金の有罪判決を受けてたようです。
それを受けて、裁判官からの質問。
裁判官 「罰金の判決のとき、(裁判官から)今度やったら刑務所行きだと言われなかった?」
被告人 「二度とやるな、と」
裁判官 「じゃ、なぜやったんですか?」
被告人 「自分の頭の中では葛藤してたんですけど、借金が…」
相変わらず借金がを繰り返す被告人。すると、裁判官は大きく息を吸い込んで、
裁判官 「完済しても、また生活するうちに借金は出てきますよ。そして、また盗みをすれば、必ず捕まりますよ! (私は)毎日法廷にいるけど、こんなの(大量の万引き事件)は少ないですよ。お店を出たり入ったり堂々としてますよ。100冊も盗むなんてねぇ。証拠がないから分からないけど、ほかにもやってるんじゃないかと疑われますよ」
本件の内容から考えて前刑後、初めての犯行ではないと疑っているようです。そして、さらに裁判官は被告人に言います。
裁判官 「傍聴席に親父も来てない、友達も来てない。でしょ? 誰がドロボーにお金を貸すんですか? 返済のあてもないのに」
とりあえずの生活費を貸してくれる父親、仕事の面倒を見てくれる友人は傍聴席にいません。というか、傍聴席には俺ひとり。俺がお金を貸すわけにもいかないしなぁ。
裁判官は、また大きく息を吸い込み、間をたっぷりとって、
裁判官 「…まだ、助かると思ってるんじゃないの?」
被告人 「…思ってません」
と、裁判官の厳しい質問に答えて、被告人質問は終了。この後、検察官は懲役1年6月を求刑しました。それを受けて弁護人の弁論です。
弁護人 「情状ですが、被害品は被害店に戻っており(中略)、今後は塗装業の仕事に就くことを約束しております。(中略)弁護人としましては、被告人を罰金刑にしていただきたいと思います」
と述べたのです。裁判官が最後にあんなに厳しい質問を投げかけたのに、と思っていると、裁判官が弁論に対して意見です。
裁判官 「あのね、弁護人ね。弁論はお受けしますけどね、罰金刑のすぐ後に同じ犯行で罰金刑の選択はありませんよ。現実にありえないのを言うのはねぇ。本人のためにもよくありませんよ」
これは異例です。非常にレアなケース。たまぁに、「それはないでしょ」っていう弁論を述べる弁護人がいるんだけど、裁判官は意見しないんですよね。聞いていないのかもしれないけど。そういう点で簡裁ってちゃんと審理してるよなぁ。
でも本当に言わなきゃいけないのは借金の返済に困っているなら、盗みで金を得るでのはなく、真っ当に働けよってことでしょ。誰一人言わなかったのは気になったよな。
★★★★★
※今年も1年、ありがとうございました。次回の更新は2008年1月14日です。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。
パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。