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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」

裁判官がギャンブル?前科ゾロゾロの被告人に温情判決

 2週間ぶりに更新で、気づけば2008年。この2週間に司法関連のニュースが異様に多かった気が。

 傍聴人の数が急増・起訴状の難解用語言い換え、裁判員辞退理由閣議決定、「それでもボクはやってない」キネマ旬報1位などなど。

 さすがは裁判員制度が始まる1年前って感じですね。裁判員の宣伝も増えるんだろうなぁ。個人的には、裁判員制度のイメージキャラクターがいつになったら、発表されるのか気になるんだけどね。予定では去年だったはずなのに。

 今回は、1月10、11日に行われた小林秀和被告人(24)の裁判傍聴記。罪名は、強盗傷人・恐喝。14歳から17歳の少年3人とともに足立区内の路上でアルバイト男性(24)を「金返せ」などと脅して、殴ったり蹴ったりし、5400円を奪った疑いで逮捕され、その後、余罪がたくさん出たという事件ですね。

 小林は少年刑務所から出所した2日後、南千住駅前で見かけた3人に声をかけ、「悪いやつは匂いでわかる。金になるからついてこないか」と勧誘。4人は調べに対して「1日で6件の強盗や恐喝を起こして、約14万円奪った」などと供述している。

 「悪いやつは匂いはわかる」って言われてもねぇ。ついていく方も問題だけどさ。で、路上スカウトして6件も犯罪を一緒にやるという、ちょっと理解しがたい事件です。裁判では、もっとすごい事実が明らかになるんだけど。

 検察官の冒頭陳述によると、少年刑務所を出所して3日目の小林被告人は、駄菓子屋の前でタバコを吸っている少年3人に「強盗やカツアゲをしに行く」「分け前はやる」などと勧誘する。人気のない路上で、被告人ら4人で被害男性を取り囲み、「ガンつけない方がいいよ、俺はヤクザもんだ。刑務所から出てきたばかりだ。ガンをつけた落とし前として金出せよ」と脅迫。被害男性が通行人に助けを求めたが、被告人はその通行人を殴り気絶させる。そして、被害男性から5400円が入った財布を奪い逃走。

 その犯行から1時間30分後。江東区の公園のベンチでしゃべっていた少年2人に対し「何見てんだよ。オレは刑務所出てきたばっかりだ。金返せ」と脅迫し合計12万円を奪って逃走。しかし、逃げ遅れた少年1人が警察に捕まり、2カ月後に被告人も逮捕された…というのが詳細のようです。報道された「1日6件」すべてが起訴されたわけではないよいうです。ついでに言うと、強盗致傷で逮捕されたけど、強盗傷人で起訴になっています。

 法廷には被告人の母親が証人として出廷です。弁護人からの質問に「優しい性格の息子」など、情状を述べていました。そして、検察官からの質問で、信じられない事実が明らかになりました。

 検察官 「被告人は盗むきっかけについて、取調べで“小学校5年のころ、母親にドロボーやれといわれ、盗んできた金を母に渡していた”と言っています。本当にこんなことがあったんですか」
 証人 「はい。ありました」
 検察官 「(本件は)あなたの責任も重いですよね」
 証人 「…はい」

 子供のころ、母親に盗みを指示されたのが悪い道に進んだ第1歩だったようです。これに関しては、裁判官からも質問が出ました。

 裁判官 「なぜ、そんなことを指示したんですか?」
 証人 「当時、パチンコとか、パート先辞めたり…。遊びたいっていうのがあって、自分本位に考えて子供をダシに甘い考えでいたんですよ…」
 裁判官 「その盗みですが具体的には?」
 証人 「よそのうちの開いている窓から入ったりとか」
 裁判官 「…あなたにも責任あると思いますよ」
 証人 「それは分かっております」

 こんな親がいるなんて…。この後、被告人の友人も出廷し、情状を述べていました。そして、被告人質問です。

 弁護人 「2つの事件ともあなたがやったことに間違いないね」
 被告人 「はい、間違いありません」
 弁護人 「なぜやったんですか」
 被告人 「遊ぶ金欲しさです」
 弁護人 「前刑出所後すぐの犯行ですけど、またやったのはなぜですか?」
 被告人 「(少年刑務所の)同房者が“出たらまたやろう”とか“どうやったら捕まらないだろう”という話をしていて、甘えた気持ちがあったと思います」

 もちろん、ちゃんと反省してる受刑者もたくさんいるんだろうけど、こんなこと話している人もいるんだなぁ。弁護人は、被告人が書いた“現在は財力がないので、出所後3カ月以内に被害弁済をさせていただきます”という反省文を朗読しました。そして、

 弁護人 「被害者に対してはどう思っていますか?」
 被告人 「自分の私利利欲のために他人を傷つけるのは、悪いと分かってるんですが、申し訳ない気持ちは、言葉で表すものではないと思っているので…」
 弁護人 「行動で表す、と」
 被告人 「はい、そうです」

 両親も経済的に厳しく、被害弁償を立て替えることができないらしく、出所後自分で返すと約束です。

 弁護人 「共犯者に対しては?」
 被告人 「前途ある未成年を巻き込んでしまって、成人である私が、責任をとるべきだと思っていますので、申し訳なく思っています」

 1つ1つ言葉を選ぶように、被害者と共犯者に対する思いを証言していました。次は検察官からの質問。

 検察官 「ドロボーは小学生の5年から?」
 被告人 「はい、そうです」
 検察官 「取調べで“(小中学時代)100回くらいやった”と言っているけど、そんなにやってた?」
 被告人 「はい、やってました」
 検察官 「盗んだお金はどうしてたんですか?」
 被告人 「母親に渡した分もあったし、自分で使った分もありました」
 検察官 「3分の1は母親に渡してたって、答えているようだけど」
 被告人 「3分の1にはいたらないですけど」
 検察官 「残りのお金は?」
 被告人 「友達にあげてました」
 検察官 「あげてた。それは使いぱしりさせられてたと?」
 被告人 「そういうことです」

 母親に盗みを指示され、同級生には金をせびられ、という不憫(ふびん)な学生時代。それが大きくなって、年下の少年たちを従えて強盗、恐喝とはなんとも。

 検察官 「中学時代、盗みを何度もしてるってことで教護院行ってるよねぇ。そして、高校入ってすぐ盗みで、初等少年院。その後も逮捕されて特別少年院。退院10日後に前刑でしょ。もう成人だったから、今後は少年刑務所。なぜ繰り返すんですか?」
 被告人 「(学校より)少年院のほうが楽だと思ってしまったんです」
 検察官 「少年刑務所では何を学んだんですか? なんでまた犯罪をやることになったんですか?」
 被告人 「それは、言いたくありません」
 検察官 「え? すべて過去を清算して反省するんじゃないの?」
 被告人 「言葉を、うまく整理できないんですけど…、中で知り合った人と、一緒に仕事しようってことになって、それが…犯罪と関係していると思わなくって…。それでお金がなくなって、今回の犯行をしてしまいました」

 詳しくは述べなかったけど、出所した時のお金をだまし取られたんじゃないかなという感じでした。

 検察官 「今まで、仕事が続いた期間は?」
 被告人 「最大の長さで、1カ月です」
 検察官 「なぜ、続かない?」
 被告人 「金銭感覚の麻痺です。1カ月働いてこんなものかと解釈してしまったからだと思います」

 当たり前のように盗みをしていた被告人にとって、労働で得る金はあまりに少なく感じたのでしょう。仕事をする気はあるようなんだけど。
 最後は裁判官からの質問。

 裁判官 「反省文なんかを見るとね。きれいな字でね、難しい漢字や言葉も出てきててね。あと、ここまでもあなたの受け答えを聞いていると、言葉を選んでしっかりと話しているしね。気持ちは伝わってくるんですけどね。あのー、意地悪な見方をするとね、少年院も何度か入って、前回の裁判もあって、こういう場に慣れているのかなぁと。ま、そういう目で見ちゃいけないって自分を戒めているんだけど。あなたの言葉を信じてもだまされないかな?」
 被告人 「ここにいる人が信じなくても、…1人で実行します」
 裁判官 「そうですか。でもねぇ、被害者に対して、出所後3カ月以内に弁済って考えが甘いんじゃないかと思うんだよね」
 被告人 「え? 甘い? といいますと」

 どうやらもっと早めに払えよという意味に受け取ったのか、驚いた様子の被告人。

 裁判官 「全部でいくらでしたっけ?」
 被告人 「24、25万円くらいです」
 裁判官 「出所したら、自分の生活費もあるしね。もしかしたら、ちょっと遊びたくなるかもしれないしね。3カ月以内なんでしょ。人のお金をとるのは簡単だけどね、自分で稼ぐのは大変ですよ。考え甘いと思いますよ」
 被告人 「……」
 裁判官 「考えが甘いと思います」
 被告人 「で、でも就職先(工務店に)決まってます!」
 裁判官 「んーー、何年も先だと景気もわからないしね。そこだってどうなってるか、状況はねぇ。そういうとこが甘いのかなと」

 今まで1カ月しか仕事が続かなかった被告人に対し、もっと社会を知りなさいといったところでしょうか。この後、検察官が懲役7年を求刑して、この日は閉廷。
 そして、次の日。裁判員裁判の対象事件なので、公判前整理手続きを行っているため、翌日に判決なのです。

 裁判官 「主文、被告人を懲役4年6月に処する。未決勾留日数のうち、120日をその刑に算入する。…主文は以上です」

 判決理由を10分ほど朗読してから裁判官は被告人に語りかけるように、説諭(正しくは訓戒)です。

 裁判官 「犯行内容も非常に悪質でね、少年院を抜きにしても前科があると。しかも、出所後3日後の犯行と。ただ、裁判所としましては、あなたの言葉を信じてね。いまひとつ、背中からグッとバックアップしたいと考えました。まだ、24歳と若いので、更生に期待したい、と。求刑が7年となると相場としては5、6年くらいが普通なんですけど、懲役4年6月。未決勾留日数も120日と最大限考慮いたしました。…人に期待されるうちにね、軌道修正してもらいたい」

 被告人に対し“甘い”と言っていた裁判官が“甘い”判決を下していました。

 被告人の家庭環境も十分な情状だったし、文字では残念ながら伝わらないけど、しっかりした受け答えもしてたんだよね。こればっかりは傍聴していないと感じ取れないけど、(これだけのことをしていてなんだけど)ちゃんとした被告人だと思うんだよなぁ。ただ流されやすいといったところか。

 裁判の上で反省ってのは「言葉」と「お金」以外にないんだけど、本件は片方が欠けてるんだよね。それでもこれだけの判決になったということは裁判官は被告人の言葉を相当信用したわけだ。「二度しません」「すいません」なんて誰でもいえるんだから、多くの被告人の弁を聞いてきた裁判官には、感じる何かがあったんでしょう。

 刑務所生活を短くして実社会を知ってもらうべきか、流されやすい被告人に長期間刑務所で生活してもらうべきか。裁判官は被告人に甘い判決で応えたわけだが。

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)

阿曽山大噴火・写真

 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。

 パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。



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