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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
ホームレス殺人、きっかけは1本のコーラ
裁判員制度を開始するにあたっては、いろんな議論がされています。で、先週、報道に関する答えが日本新聞協会から出されたのです。
○捜査段階の供述の報道にあたっては、(中略)内容のすべてがそのまま真実であるとの印象を読者・視聴者に与える事のないよう記事の書き方等に十分に配慮する。
今後、事件を報じる時は、今までと違う形になりそうです。必要以上に事件を報じて、裁判員に予断を与えてしまうのを危惧しての結果でしょう。でも、今時、マスコミから流されてくる情報がすべて本当だと思っている人なんているのかね。報じられた内容が事実ってわけじゃなくて、報じられたという事実と受け入れて自分で判断するんじゃないの。このコラムも事件の内容は新聞記事からの転載・引用・抜粋にしてるんだけど、裁判を傍聴したら記事と違っていたってケースは多々あるわけだしね。そんなに流されやすい大人が多いとは思えないんだよなぁ。
この日本新聞協会の指針について、鳩山邦夫法務大臣は「(現在も)比較的常識的な報道がされている。報道を強く規制したら、国民の常識が変化し、裁判に参加してのその社会通念が生かされない」とコメント。報道規制の必要はないと考えているようです。
果たして“比較的常識的な報道”は、裁判員制度が始まると間違っていたということになるのでしょうか。今後のニュース・新聞に注目ですね。というか、もうちょっと国民を信用してもいいんじゃないの? 報道規制ぐらいのことで常識が変化するような国民なら、人を裁くなんて到底無理でしょう。
今回は1月18日に行われた加藤大介被告人(33)の裁判の話。罪名は傷害致死。
新聞報道によると、ホームレスによるホームレスの殺人事件ですね。07年10月中旬、無職の加藤大介が東京都江戸川区の都立大島小松川公園で、住所不定の西岡義人さん(57)を「ウソをつかれ、腹が立った」と足蹴にするなどして死なせた。加藤は07年9月ごろから公園に現れるようになり、以前から公園に住んでいた西岡さんと2人で酒を飲むなどする仲だった。
人を殺してしまうほど立腹した、ウソとは一体どんなものだったのか。起訴された罪名は、逮捕時の殺人ではなく、傷害致死。検察官は被告人に殺意はなかったと認定しての起訴のようです。
検察官の冒頭陳述によると、被告人は5年間勤めた住み込みの仕事を辞め、07年4月頃から住所不定無職に。公園などで寝泊りしていた7月下旬に、大島小松川公園で生活している被害者と知り合う。そして、10月13日の犯行当日。被告人と被害者の腹を2回けり、手拳や棒で複数回顔を殴って被害者を死に至らしめた。死因は外傷性ショック死。
どうやら、被告人と被害者は事件の3カ月前から知り合いだったようです。そして、被告人の取調べでの供述が朗読され、事件の動機・詳細が明かされました。
検察官 「事件の3カ月前、ペットボトルのコーラを置いて、その場を離れ、戻ってくるとそのコーラがなくなっていた。盗まれたと思い、その場にいた人を問い詰めると“俺は盗ってない。物を置いておくと盗まれるから気をつけなよ”と言われ、それから西岡さんと親しくなりました」
コーラを失くした時に、同じホームレスとしてアドバイスしてくれたのが、被害者だったようです。それからは、被告人が杖(つえ)を使って生活する被害者の面倒をみてあげたり、一緒に食事をしたりと2人で行動するような親しい仲になったとのこと。
検察官 「そして、犯行当日については、『15時頃私とおっちゃん…おっちゃんとは被害者のことですが2人でスーパーに行きまして、一緒に万引をしました。私はカツどん、おっちゃんは焼酎を盗みました。そして、公園に戻り2人でしゃべっていると“最近はいい女がいないな”と言い出したので、私は“そんなことないですよー”と言い返したので、険悪なムードになりました。そして、おっちゃんに“物を隠す袋を取ってくれ”と言われ、袋を取り出すと、その中に3カ月前に盗られたコーラのペットボトルが入っていました。コーラの量もあの時と同じだったので問い詰めると、おっちゃんは、“すまん、ゴメン”と謝りました。私は、3カ月間だまされ続けたという思いがこみ上げ、おっちゃんを殴りました。今としてはあまりにも小さなことだと思いますが、その時はがっかりしたのです』と述べております」
動機はたった1本のコーラだったようです。こんなことで、人が亡くなってしまうとは。なぜ、被害者が一口も口をつけず、コーラを3カ月持っていたかは分からないけど、これほどの怒りを買うとは思わなかったでしょう。
自分の物を盗まれた怒りは理解できても、ここまで殴ったりするのは理解しがたいところです。だいたい、犯行前にはスーパーで人のものを盗んでいるわけだし、その辺の倫理観はどうなっているのやら。
そして、被告人質問です。まずは、弁護人から。
弁護人 「おっちゃんの家族に対して、何か言いたい事はありますか?」
被告人 「私のしたことで、取り返しのつかないことになってしまって」
弁護人 「おっちゃんに対しては?」
被告人 「寝る時も起きる時も、毎日おっちゃんが思い浮かびます…」
声は小さいものの、被害者・遺族に対して謝罪の弁を述べていました。そして、被告人の生育歴・性格についての質問です。
弁護人 「幼少期、親に対してどう思ってました?」
被告人 「親と思ってませんでした」
弁護人 「他の弟さんと比べて、あまり愛情を注がれなかったそうですね」
被告人 「自分だけ外にいる感じで」
弁護人 「高校1年のころに家を出てますが、ホームレスになった時、親元に戻ろうとは思いませんでしたか?」
被告人 「少しは思いましたけど」
弁護人 「なぜ、戻らなかったのですか?」
被告人 「私に対して愛情がないので」
弁護人 「今回逮捕されて、親から差し入れは?」
被告人 「父の方から下着の差し入れはありました」
弁護人 「お金は?」
被告人 「ありません」
逮捕後は母親から手紙が1通きただけで面会には来てくれていないとのこと。
弁護人 「あなたは物への執着心が非常に強いという、ちょっと変わった性格のようですね。子供の頃、机の上の消しゴムが動かされただけで激高したことがある、と」
被告人 「はい。おばあちゃんからもらった物だったので」
弁護人 「本件もね、裏切られたという気持ちは分かりますが、普通の人ならここまでやるだろうか?」
被告人 「いえ。(私の場合は)感情をうまくコントロールできないのだと思います」
弁護人 「今後、専門家のカウンセリングや意思の治療を受けないとね」
被告人 「それは自分も、うすうす分かっています」
と、自分の性格に問題があったと主張して弁護人からの質問は終了。
次は、検察官からの質問です。
検察官 「あなた、棒で殴ってるよね」
被告人 「はい」
検察官 「それは西岡さんの杖ですよね」
被告人 「そうです」
杖と言っても、公園に落ちていた木の枝で、かなり太く立派なものだったらしい。
検察官 「西岡さんはコーラを盗んだことを謝ったんでしょ。こんなに執拗に殴らなきゃいけなかったんですか?」
被告人 「感情的に熱くなってしまって」
検察官 「殴っているとき西岡さんは抵抗しませんでした?」
被告人 「…いえ、無抵抗でした…」
検察官 「どう謝罪するつもりですか?」
被告人 「生涯、罪を背負って、おっちゃんのことを忘れないようにしたいです!」
と、述べて質問終了。
この後、検察官は懲役12年を求刑し、閉廷でした。
足腰の弱かった被害者は和式トイレでかがんだ後、自力で立ち上がることができず、被告人に手伝ってもらっていたらしい。たった3カ月の仲とはいえ、かなり親しい付き合いだったんじゃないかと思えるエピソードです。親に愛されずに育った被告人にとって、被害者は父親代わりだったのかもしれないですね。
しかも、悪いことではあるけど、一緒に万引するという秘密を共有した仲でもあるわけだ。それが、3カ月前にコーラを盗まれたという怒りで殴り殺されてしまうなんて。しかも、自分が使っていた杖で。抵抗することもなく。
被告人の激高しやすい性格だけで片付けられては、困るんだけどなぁ。どこまでも切なく、やりきれない事件だね。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。
パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。