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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
金がそろうまで謝らない男
10日(日)と11日(月)に「大川興業のお笑い裁判の歩き方」というライブがあるので、ちょこっと宣伝です。
2月10日(日)は名古屋の今池ガスホールで18時開演となってます。11日(月)は京都の磔磔で18時開演です。両日共に総裁と阿曽山大噴火が出演します。お暇な方はどうぞ。
それはさておき、先週は東京地裁に大きな変化が2つもあったんですよ。
1つ目は裁判員用の法廷にモニターが設置された事。裁判官と裁判員が座るとこに5台。弁護人の席、検察官の席、証言台に1つずつ。証言台に置いてあるモニターには、タッチペンみたいなのがついていたような。さらに弁護人の後ろと、検察官の後ろには大型のワイドテレビが1台ずつ。他にもいろんな機材が用意されてて、電器屋さんのようです。あんな場所で審理されたら、被告人も萎縮するだろうなぁ。
2つ目は公判開廷予定表が両面印刷になったこと。今までは片面コピーだったんだけど、2月1日から両面ですよ。これが結構見づらい。例の再生紙偽装のせいだと想うんだけど、裁判所にまで影響を及ぼすとはね。世の中はすべてつながってるんですね。
今回は2月1日に行われた河井敏章被告人(26)の裁判の話。罪名は、窃盗、不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反、電子計算機使用詐欺。事件の内容は、新聞によって記事に違いがあったんだけど、時事通信の記事から事実関係を引用します。
派遣社員の河井は、インターネットバンキングに不正アクセスし、同僚の口座から23万円をだまし取ったとして、警視庁ハイテク犯罪対策総合センターに再逮捕された。職場で同僚のネットバンキング用カードを盗み、振込捜査をしたもので、逮捕時に「借金で生活に困ってやった」と供述した。
調べによると、河井は、秋葉原の電器店などで、男性派遣社員(27)が使用する銀行のネットバンキングに不正アクセス。男性の口座から23万円を自分の口座に振り込んだ疑いがもたれている。
職場にあった同僚のバッグから、カードを盗み、展示用パソコンでカードの裏面に書き込まれていたパスワードを入力してアクセス。自宅の近所の家に無断侵入して、パソコンを操作し、再び振込をしていたという。
これはありそうでなかなかない事件ですね。盗んだカードでお金をおろすと言うのは事件としてはよくあるんだけど、送金とはねぇ。自分の口座に送金した記録が残っちゃいますからね。さらに、他人の家に侵入して盗みをする事件はあっても、パソコンいじっただけとは珍しい。被害者の方もカードの裏に暗証番号を書いておくなんて。
検察官の冒頭陳述によると、被告人は去年の8月に被害者が働く電器店に派遣される。9月18日、被告人は被害者が携帯のロックを解除しているを見て「今の4ケタの数字が他のカードの暗証番号と同じかもしれない」と思い、スキを見て、被害者のバッグからカードを盗む。その日のうちに、勤務店1階に置いてあるパソコンを使って、ネットバンキングにアクセス。暗証番号は被告人の予想通りで12万9000円を自分の口座に送金した。
さらに、翌日。隣人宅に忍び込み、パソコンを使って、またもや不正アクセス。前日と同様の手口で10万円を送金した。これが事件の詳細のようです。
暗証番号はカードの裏に書いてたんじゃなくて、被害者が4ケタの数字を打って、携帯のロックを解除したのを見たってことですね。被害者もまさかそんなところからばれるとは思っていなかっただろうけど。
で、なぜお金が必要だったのか。被告人は7月に結婚した妊娠中の妻がいたんです。生活費を妻に渡さなきゃいけないし、借金の返済もあるけど、仕事を始めたばかりで給料が少ない、と。それで犯行に及んだというのが動機のようです。
そして、被告人質問。まずは、弁護人から。
弁護人 「被害者が働いている電器店で勤務する前は、おじさんがやっていた金融業の仕事をしてたんですよね」
被告人 「おじさんの友人がやっていた会社です」
弁護人 「そこを辞めたのは、奥さんのお父さんが(結婚するなら)“金融業は許さない”と?」
被告人 「はい、それで辞めました」
結婚のために仕事を辞め、派遣会社に登録し、新たな1歩を踏み出そうとした矢先の事件だったようです。
弁護人 「被害者に対して、23万円の弁償はどうするつもりなんですか?」
被告人 「働いたお金で返そうと考えています」
弁護人 「今は借金もあって、経済的に無理なんだよね。じゃあ、社会復帰後は仕事はどうするんですか?」
被告人 「おじさんのところ(金融の会社)へ働きに行きたいと思っています」
勤労意欲があるのはいいんだけど、金融業に戻ったら、奥さんのお父さんが許さないのでは。
次は検察官からの質問です。
検察官 「調書見るとね、おじさんがいろいろと面倒見てくれているようなんだけど、面会には来てくれました?」
被告人 「2回ほど」
検察官 「おじさんのとこで働きたいって言ってたけど、おじさんはなんて言ってました?」
被告人 「自分でやれるところまでやれ、と。それで困ったら来い、と。1から叩きなおしてやるって言ってました」
おじさんお言うとおり、やれるだけやってからお世話になった方がいい気もするんだけど、いつでもバックアップしてくれるようです。
そして、動機にも関係してくる奥さんについて。
検察官 「奥さんと連絡は?」
被告人 「取ってないです」
検察官 「お子さんは?」
被告人 「先週生まれたそうです」
検察官 「今後奥さんとは?」
被告人 「離婚しましたので」
結婚のために仕事を変えて、生活費を入れるための犯行なのに。
検察官 「でも、犯行時は家族がいるんだからというブレーキはかからなかった?」
被告人 「そこまで考えられませんでした」
検察官 「犯行日の前に給料はもらったんでしょ? 給料日はいつだったんですか?」
被告人 「9月15日です」
検察官 「いくらでした?」
被告人 「ほとんど出てないです」
検察官 「奥さんに今月の給料が少ない事は?」
被告人 「言えませんでした」
何日締めの15日払いなのかはわからなけど、働き始めて1カ月くらいで給料が少なく、妻にも言えずに今回の犯行というのが理由のようです。
検察官 「被害者は勤務先であなたを指導する立場ですよね。そんな人を裏切る形になってどう思ってます?」
被告人 「申し訳ないです」
検察官 「詫び状とか出してます?」
被告人 「出してないです。(謝罪の)言葉だけじゃ伝わらないと思ったんで、ちゃんとお金をそろえてから、と」
すると、検察官が声を荒らげて、
検察官 「まず、謝るのが先なんじゃないの?」
被告人 「はい」
これに関しては裁判官も気になったようで質問が出ました。
裁判官 「おじさんは被害弁償を出してはくれないの?」被告人 「わからないです」
裁判官 「言ってないの? 相談しないのは?」
被告人 「人から借りたお金ではなく、自分で稼いで返そうと思って」
と、被告人なりの考えを述べていました。
このあと、検察官が懲役2年を求刑して、閉廷。被告人は働いてお金を返すとは言ってたけど、被害者にとっては借りたお金でも関係ないんだよね。大体、おじさんは金融の仕事をしてるんだから、それこそお金を貸して被害弁償するべきだよなぁ。
しかも、お金がそろうまで謝罪文を書かないなんて。被害者を第1に考えたら、こんな行動にはならないと思うんだけど。犯行は緻密だけど、社会常識に関しては緻密さのカケラもないような。…それが犯罪に走る原因と言えば原因なのかもしれないね。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。
パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。