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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」

放火はイライラの無限ループから

 3回前に裁判員裁判用の法廷にもモニターが設置されたことを書いたんだけど、写真も公開されてたんですね。ついでに、その法廷に関するお金のことも公表ですよ。新しい機材はすべてリースで、月に9万円くらいらしい。全国170カ所の法廷で同じような設備にするって話だから、すべてが完成する頃には月々1530万円のリース代がかかるんですね。年間で約1億8000万円。裁判員制度を導入することでいろいろと費用はかかるだろうけど、リース代だけでこんな金額が必要になるなんて。

 今回は2月12日に行われた明石淳也被告人(23)の初公判の話。罪名は現在建造物等放火・建造物侵入・窃盗・占有離脱物横領。

 新聞報道によると、07年3月に東京都練馬区の民家近くの枯れ草などにライターと伝票を使って火をつけ、木造2階建て民家の外壁など約5平方メートルを燃やした事件ですね。焼け跡から、着火の際に使った宅配伝票がみつかり、住所や名前などが記載されていたことから明石が捜査線上に浮上。逮捕後に「借金などでストレスがたまり、火をつけたがすっきりしなかった。後悔している」と供述したと伝えられています。

 本人も燃やしたはずの伝票から足がつくと思っていなかっただろうけど、ちょっと変わった犯人の特定の仕方ですね。

 報じられてたのは放火の事件なんだけど、裁判では、新聞販売店に侵入してバイクを盗んだ件(建造物侵入・窃盗)、路上に駐輪されていた自転車を持ち去った件(占有離脱物横領)でも起訴されていました。犯罪のデパートですね。

 検察官によると、被告人は銀座のお店で板前修業をしていた、と。03年9月に先輩がお店をやめることになり、仕事を任せられることからプレッシャーを感じ始める。そのストレスを発散するため、キャバクラ通いをはじめ、平成17年夏ごろには、借金が180万円になる。06年8月には債務整理をしたが、その一方で路上に落ちているゴミに火をつけて、憂さ晴らしをするようになる。

 そして、07年3月29日午前3時過ぎ、落ちていた段ボールを燃やしたが、もっと燃やしたいと考え、目に付いた竹を燃やすため、持っていた宅配伝票に火をつけて、竹の下に火を投げ入れたというのが事件の詳細のようです。

 バイクと自転車の盗みについては、駅から自宅まで距離があり、歩くのが面倒で盗んだとのこと。すべての事件が非常に自己中心的な動機なんですね。他人のことをまったく考えてないというか。被告人の父親が証人として出廷して、実家に戻して監督すると約束していました。

 そして、被告人質問。まずは弁護人から。

 弁護人 「放火について聞きますが、銀座で板前の仕事が終わったのは何時ですか?」
 被告人 「午後11時30分ころ…」
 弁護人 「(自宅の最寄の)成増に着いたのは?」
 被告人 「0時30分頃です」
 弁護人 「駅に着いてからの行動を教えて下さい」
 被告人 「(行きつけだった)キャバクラの店員とちょっとしゃべったあとに、コンビニで立ち読みをしました。そして、店を出て徒歩で移動しまして、デイリーヤマザキの前にゴミ袋が落ちているのを見つけました。それに火をつけてすっきりしようと思い、焼きトン屋の方へ(行きま…)」
 弁護人 「ちょっと待って下さいね。以前から、ゴミに火をつけていたようですが、デイリーヤマザキの前で火をつけないで、焼きトン屋の方に移動したのは何故ですか?」
 被告人 「そのゴミだけではすっきりしないのではないかと思い、焼きトン屋さんの前に段ボールがあったので、一緒に燃やしました」

 火をつけてストレス解消というのが理解できないんで、より大きなものに火をつけたほうがと言う考えは全く意味が分からないですね。

 弁護人 「伝票は最初から燃やすつもりで持っていたんですか?」
 被告人 「いえ、実家から届いた米をケータイの(出会い系?)サイトで知り合った女性に送ったのですが、それが一緒に住んでる兄に見つかると困るので、持っていました。それで伝票を燃やそうと思ったときに、竹やぶが見えてきました」
 弁護人 「その竹を見て、どうしましたか?」
 被告人 「伝票をねじり、火をつけて竹やぶの下に入れました。バレーボールくらいの火になり、それが一気に燃え移って、怖くなって逃げ出してしまいました」

 小さなゴミより段ボールを燃やす方がすっきりするという被告人が、民家に隣接する竹が燃えるのを見て、逃げ出す始末。迷惑この上ない話です。

 弁護人 「そもそも、なぜ火をつけたんですか?」
 被告人 「借金のことや仕事のイライラが募り、火をつけてしまいました」
 弁護人 「仕事のイライラとは?」
 被告人 「(働いていた店は)仕事のミスをした人よりも、それを依頼した人のほうが悪いという考えがある店で、私はよく失敗をするのですが、なかなか改善できず、迷惑をかけていました。さらに、兄弟子が辞めると聞いて、プレッシャーを感じ、イライラとなっていました」
 弁護人 「借金のほうは?」
 被告人 「それでキャバクラに行くようになって、多い時で180万円くらいになりました。兄が弁護士に話をしてくれて、債務整理をしたのですが、それでもキャバクラに通って。私は兄を裏切ってまでも、キャバクラに行ってしまって。それが、またイライラになっていました」

 最初のうちはストレス解消になってたんだろうけど、キャバクラに行くことがイライラになるとは、まさにストレスの無限ループと言ってもいいかもしれません。

 弁護人 「ゴミに火をつけたのは、初めてではないですよね? 以前はどんなものを燃やしてました?」
 被告人 「落ちているゴミやマンション前のごみ置き場のゴミなどに火をつけていました」
 弁護人 「放火とあなたのイライラに、どんな関係があるんですか?」
 被告人 「火をつければストレスがなくなるのではないかと思って」
 弁護人 「実際ストレスはなくなりました?」
 被告人 「一時的には解消されました。でも、不安感や恐怖感が残りました」

 キャバクラ通い同様、ゴミ燃やしもストレスの無限ループです。まさしく、負のスパイラル。この後、「身勝手な自分の性格に問題がある」「2度としません」と反省の弁を述べて質問終了。

 次は、検察官からの質問です。その前に裁判長が時計をちらちら見ながら、

 裁判長 「検察官は何分くらい質問します?もう5時回ってるんで」
 検察官 「あ、10分ほどで」
 午後5時で仕事終わりなので、長引かないように裁判長が釘をさしました。
 検察官 「どのくらい前から、ゴミに火をつけてたんですか?」
 被告人 「3年ほど前からです」
 検察官 「平成17年(2005年)から何回くらいやったんです?」
 被告人 「10回以上はやっておりました」
 検察官 「火をつけて、本当に仕事のストレスとか解消したんですか?」
 被告人 「一時的にはすっきりするんですが、不安感が残りました」
 検察官 「終わった後は、余計に不安が強くなる?」
 被告人 「はい」

 ここで検察官が仕事のことを聞きだします。

 検察官 「板前は自分で望んでやってました?」
 被告人 「はい!」
 検察官 「修業は厳しいのかもしれませんけど、頑張ろうとは考えませんでした?」
 被告人 「はじめは思ってたんですが、続けていくうちに、仕事の厳しさがわかっていき、追い込まれていきました」
 検察官 「火をつけるほど追い込まれたなら、他の仕事を探そうと思いませんでした?」
 被告人 「(家族の知人の紹介で働いていたので)家族のことを考えると踏ん切りがつかずにだらだらと」
 検察官 「犯罪をするくらいなら、紹介した人も家族も仕事変えてもらった方がよかったんじゃないですか?」
 被告人 「…どうしても、…それは考えませんでした…」

 ストレスや借金の原因はすべて仕事にあるんだから、仕事をかえればよかったんですよね。誰も被告人に板前を続けるように無理強いはしてないんだし。この後は、被告人に心情などを聞き質問終了。

 最後は裁判官からの質問です。と、思ったら、

 裁判長 「えー、もう5時回ってますんでね、次回に続行しましょう」

 というわけで閉廷。ものすごい長時間質問するつもりだったんでしょうか。ちょっとくらい延長して、被告人質問くらい一気に終わらせてもいいと思うんだけどねぇ。

 被告人の犯行は、身勝手、自己中心的であるのは間違いないんだけど、本人の弁を聞いてみると結構他人のことを考えてるんだよね。職場のこと、兄のこと、家族のこと、店を紹介してくれた人のこと。いろいろ気をつかって生活してたはずなのに、放火した後や盗んだ後の被害者のことは考えてないんだよな。

 でも、真面目なんだろうな。仕事に対して真面目だったからこそ、悩んだわけでしょ。時間過ぎたから閉廷するくらいのスタンスで働いてても十分だと思うんだけどね。検察官の言うように犯罪の道に走るよりはマシでしょうよ。別に、この裁判長が真面目じゃないって意味じゃないんだけどさ。


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3月7日(金)被告人・鈴木一範:殺人、死体遺棄
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阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)

阿曽山大噴火・写真

 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。



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