政界で「宇宙人」といえば、今も昔も、鳩山由紀夫元首相のことを指すのだろう。以前は、政治信条の「友愛」をもじって「友愛星人」など、かわいらしい呼ばれ方もしていた。今では「何を考えているのか分からない」(政界関係者)という後ろ向きな意味も交じっての「宇宙人」だ。

 首相辞任後の言動、特に今回、ロシアが一方的に編入したウクライナ南部のクリミア半島訪問では、日本政府と異なる主張を繰り返し、国民が政府の情報に「洗脳されている」とまで言い切った。客観的な根拠を示さない限り、元首相の肩書で、国民が「洗脳されている」という発言はなかなかできないと思うのだが、そこができてしまうところが、鳩山氏の宇宙人たるゆえんなのだろうか。

 これまで、そんな鳩山氏の「宇宙人」ぶりを強く感じていたのは、言動よりもファッションだった。良くも悪くも個性的。政治家らしくなかった。印象深いのは、首相就任前の09年5月、長野・軽井沢の講演で着ていたシャツ。白地に、紺色のつるのような植物がはっている奇抜なデザインで、見慣れた国会議員の私服を考えると、新鮮だった。このシャツはお気に入りだったようで、首相退陣後、映画イベントに出席した際も同じものを着ていた。

 首相就任時は、験がいいとして金色が入ったネクタイも多用し話題になった。複雑に色が混じり合った不思議なのネクタイも、何度も見かけた。個性的な色のネクタイを好む国会議員は、決して少なくはないが、鳩山氏にインタビューした際、多くのネクタイは、夫人の見立てのほか、芸能人などの知人に贈られたものが多いと話していた。

 首相就任の際、国際舞台にデビューする鳩山氏の服装を、ファッションジャーナリストの方に採点していただいたことがある。評価は「50点」。「ちょっと着こなせていない。ネクタイもときどき浮いている気がする」「好きなものと似合うものは違う」。ずいぶん辛口だった。国際舞台では、「悪目立ちしない」ことが大事だともうかがった。

 悪目立ちしない。今回、一連の鳩山氏の発言はまさに、その「肝(きも)」を外してしまったため、大きなハレーションを起こしてしまったように感じる。ファッションの悪目立ちだったなら、ワーストドレッサーといわれても、「宇宙人だから」という笑い話ですまされるのだろうが…。

派手な柄のネクタイで登場することも多かった鳩山元首相=09年5月26日
派手な柄のネクタイで登場することも多かった鳩山元首相=09年5月26日