英王室のウィリアム王子夫妻に長女が誕生した。これまで、ロイヤルウエディングを2度、英国で取材(1度は、チャールズ皇太子とカミラ夫人の再婚式だった)し、今年3月に初来日したウィリアム王子の東北訪問も追いかけたが、こちらの想像を裏切るような「身近さ」を、感じた。

 もちろん、間近に近づいて話を聞けるわけではない。11年4月のウィリアム王子の結婚式は超厳戒。近づくは不可能で、ハイドパークのパブリックビューイングの画面で、見守るしかなかった。それでも、近くで取材できた機会を考えると、メンバーは、観衆や取材陣の側に可能な限り近づいて、メッセージを発していたように感じる。

 今年3月、宮城県女川町の「きぼうのかね商店街」を訪れた王子は、東日本大震災の被災者と交流した。王子の周りには、日英の屈強なボディーガードがたくさんいたが、努めて距離を取りながら、前を歩く王子を警備し、周囲を警戒していていた。「王子はサービス精神が旺盛。どんどん観衆の方に近づいていかれる」と地元の人に聞いたが、確かにそんな様子だった。

 事前に決められた取材エリアで到着を待っていると、王子は歩きながら時折立ち止まり、被災者らと会話。その後ろを、多くの聴衆が、距離を保ちながら追いかけるように歩いていた。警備担当者も厳しく規制するというより、観衆が王子を近く感じられる絶妙の距離感を保っていた。

 その場にいた人々すべてが、王子に接近してはいるものの、「信頼関係」を損ねないように行動したため、混乱は起きなかった。王子は予定滞在時間を少しオーバーして、その地を離れた。「あんなに近くで会えるなんて」と、驚く声も聞いた。

 ロンドンでは、王室メンバーが「そこにいる」ことが、決して珍しいことではないと聞いたことがある。買い物にも行くし、故ダイアナ元妃は、王子2人が少年時代、いっしょにファストフード店にも出向いた。弊社ロンドン通信員の鈴木雅子さんは以前、ロンドン市内の駐車スペースに車を止めた時、何台か先の車から出てくるダイアナ元妃に出くわし、びっくりした経験があるという。

 ただ、暗黙のマナーがある。街で王室メンバーに偶然会っても、騒がない。ウィリアム王子夫妻の結婚直前、キャサリン妃の実家があるロンドン郊外の村を取材した際も、そうだった。2人がパブなどでデートしていることに気づいても、住民は「見て見ぬふり」していたというのだ。

 「信頼関係」があるからこそ、自然にあの身近さが生まれるのだろうか。