安保法制関連法案の審議が始まった衆院平和安全法制特別委員会。実質審議2日目から、安倍晋三首相が放った「早く質問しろよ」のやじで紛糾した。5月29日は岸田文雄外相の答弁をめぐって、審議が中断。中途半端な散会に追い込まれた。波乱のスタートだ。

 波乱は予想されたが、こんなに早く、荒れるきっかけをつくったのが、首相のやじだったことは間違いない。やじは、論戦を活性化させる期待から「議場の華」といわれてきた。最近のやじ合戦は、果たして「華」といえるのだろうか。

 法案の趣旨説明が行われた5月26日の衆院本会議でも、いろんなやじが飛んでいた。1つだけ、心にズシンと響いたやじがあった。

 首相が共産党の志位和夫委員長への答弁中、のどを潤すために水を飲んだ時だ。その直前、首相は、自衛隊員による後方支援活動が武力行使になるとの指摘は当たらないと、志位氏の主張に反論した。すると「戦争を知らないから、そういうことが言えるんだよ。沖縄の戦争。調べてごらん」と、低い声が響いた。

 発言したのは、昨年の衆院選沖縄4区で初当選した仲里利信議員(78)。米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対した「オール沖縄」候補の1人で、自民党公認候補を小選挙区でやぶった。仲里氏は沖縄戦を経験し、家族を失っている。

 戦後生まれ(1954年)の首相にも、恐らく聞こえたはずだ。首相は反応することはなかったが、水を飲んでいたスピードが一瞬、緩んだようにも感じた。 仲里氏にやじの背景について話を聞くと、首相が水を飲んでいるタイミングにあえて、やじを飛ばしたと教えてくれた。静かな議場に声が広がる、「効果」を考えたのだろう。

 自民党の国会議員時代、「やじ将軍」といわれた新党大地の鈴木宗男代表(67)に、以前「やじの流儀」について話を聞いたことがある。宗男氏も、やじがもたらす影響や効果を深く考えた上で、発言していたように感じた。

 宗男氏によると、やじとは本来「機転や勘所が大事で、頭の良さや、飛ばす側の資質が問われる」という。やじを飛ばしながら、「これ以上言ってはいけないと、ある程度コントロールしていた」というから、かなり、奥深いものなのかもしれない。

 最近のやじについては「うるさすぎる」と苦言を呈し、「ただガーガーと言うのではだめ。明るく、場が和むようなものでなくてはならないし、陰湿な言い方もよくない。迫力も必要ですが、今は迫力がなくてうるさいだけですね」。ヤジ将軍というネーミングは、「『やじ馬』といわれれば恥ずかしいが、ゼネラル(将軍)ですから。誇りを持っていた」と振り返った。

 そういえば最近、「やじ将軍」と呼ばれる議員はあまり聞かない気がする。そんな現実が、最近の「やじ国会」を象徴しているのかもしれない。