村上春樹氏のノーベル文学賞受賞は今年もお預けになったが、「ハルキスト」は例年よりもご機嫌だった。村上作品の読書会が開かれている東京・荻窪のブックカフェ「6次元」では、今年も常連客約10人が吉報を待った。ボブ・ディラン受賞で肩を落としたが、ディランが村上作品に登場することもあり、「村上さんはディランが好き。喜んでいるはずです」と一転笑顔。ディランの曲を聴きながら祝杯を挙げた。

 狭い店内に大量の報道陣が集まり、一角のテーブルで少数のファンが発表を待つという恒例の風景。村上氏が今年も受賞を逃した。それでも、ハルキストたちの表情は、昨年までとは全く違った。

 ディラン受賞の一報をスマートフォンで知り、ファンは若干の落胆、一瞬の沈黙。その後、少しずつ笑顔が広がった。「ディランなら良かった。悔しくない」「今までの文学賞発表で一番うれしい」。村上作品にディランが登場することもあり、スマホでディランの曲を流しながら、用意したワインで乾杯した。

 「6次元」店主のナカムラクニオさん(45)は「村上さんはディランが好き。喜んでいるはず。いろんな音楽が村上作品に出てきますが、ボブ・ディランは別格。村上さんとディランをテーマに読書会がしたい」と意気込んだ。

 ディランは村上作品の数冊に登場するが、特にファンの印象に残るのが、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(1985年、谷崎潤一郎賞作品)のラストシーンだという。主人公が港に止めた車の中でディランの曲を聴くところがクライマックス。最後まで読めば、曲が読者の心に刻まれるという。

 ある男性ファンは「まさに『風に吹かれて』いるような気持ち」とディランのヒット曲に引っ掛けて表現。「こういう選考もあるんだと驚いた。村上さんを選んでもらえる年も来ると思う。来年はディランを聴きながら、吉報を待ちます」。縁の深いディランの受賞に続くのは、村上氏かもしれない。【柴田寛人】