大腸ポリープは良性でも悪性でも盛り上がったものをポリープと呼んでいるだけです。良性のポリープには大きく分けて腺腫と過形成ポリープが含まれることを以前に説明しました。腺腫は良性ですが、大腸がんになっていく可能性があります。

 正常な粘膜の細胞を顕微鏡で見ると、細胞がきちんときれいに並んでおり1つ1つの細胞にもゆがみがありません。がんになると細胞の並びが乱れ、それぞれの細胞もゆがみ、いびつに見えます。この腺腫は正常粘膜とがんの中間地点と考えられています。例外はありますが、正常な粘膜から腺腫ができて、その腺腫ががんになっていくのが一般的な大腸がんの出来方です。

 腺腫と早期のがんはどう違うのでしょうか? 私たち内視鏡医は、ポリープの表面の模様を確認することである程度、腺腫か、がんかを判断することができます。しかし、100%ではありません。

 腺腫からがんになった途端に症状が出ると考えている方が非常に多いです。残念ながら、そのようなことはありません。早期のがんには症状はないことがつきものです。

 早期がんと進行がんはどう違うのでしょうか? その大きな違いは深さです。私たち医者は厚みが1センチあるかないかという大腸の壁を3つの層にわけて考えています。地層の様に考えて内側から(1)粘膜(2)粘膜下層(3)シート状の筋肉である筋層があります。

 がんは内視鏡で見える粘膜という一番浅い層から出てきて、徐々に深いところへと入り込んでいきます。がんがまだ早期の段階では(1)の粘膜にしか病変はありません。しかし(2)の粘膜下層には比較的太い血管やリンパ管という免疫に関係しているリンパ液という液体を流す管があります。

 粘膜下層にがんが浸潤すると、血管を介して肝臓など他臓器にがんが飛び散ります。がんの転移です。リンパ管を通して、がんがリンパ節という場所に飛び散り、リンパ節転移を起こすこともあります。内視鏡で治療を行えるかどうかは、この深さが非常に大切です。

 ◆池谷敬(いけや・たかし) 1981年(昭56)9月21日、静岡県出身。浜松医科大卒。2012年から東京・中央区の聖路加国際病院勤務。内視鏡で粘膜下層を剥離するESDという手法で、大腸がんに挑んでいる。