プレーバック日刊スポーツ! 過去の12月3日付紙面を振り返ります。1990年の24面(東京版)は、日本人初宇宙へ飛んだ 秋山さんソユーズから第一声「これ本番ですか」でした。

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 TBS宇宙特派員・秋山豊寛(とよひろ)さん(48)がモスクワ時間2日午前11時13分32秒(日本時間2日午後5時13分32秒)、日本人として初めて宇宙に飛び立った。秋山さんを乗せたソユーズ宇宙船は、8分50秒後、地球周回軌道に乗ることに成功、“これ本番ですか?”とテレビ記者らしい第一声の後、「地球はやっぱり青かった」と世界初のジャーナリスト宇宙飛行士として地球の姿をリポートした。なお、4日に「ミール」とドッキングし、10日帰還する。

 約1年間にわたり厳しい訓練を重ね、ひたすら宇宙を目指してきた秋山さんが、ついに宇宙の人となった。日本人の期待と、ジャーナリストとしての誇りを胸に、励んできた日々はすべてこの瞬間のため。船内の身動きがとれないシートに座り、「母親の胎内に帰ったような感じですね。狭い空間に1億人の期待を感じます」とうれしそうに語っていた日本人初の宇宙飛行士は、地面からわくような爆音と猛烈なジェット炎を従え空へ飛び立った。

 8分50秒後、秋山さんと1億2000万人の日本人の夢を乗せたソユーズ宇宙船は、周回軌道に乗った。1961年(昭36)4月、ガガーリン(ソ連・ボストーク1号)による人類初の宇宙飛行成功から30年、日本の宇宙時代がようやく幕を開けた瞬間だった。日本人初、民間人初、ジャーナリスト初、「秋山豊寛」の名は、宇宙史に永遠に刻まれることとなった。

 秋山さんの仕事はただ飛ぶことだけではない。宇宙から見た地球をリポートするという大きな使命がある。丸ごとの地球を確認できるただ一人のジャーナリストとして、世界中の人々にありのままの地球を伝えなければならない。

日本中が息をのむ瞬間がやってきた。「こちらはソユーズ11号の秋山です」。離陸から約1時間43分後の午後6時56分30秒(日本時間)、秋山さんのリポート第1弾だ。聞こえる。はっきりとした日本語が、200キロの宇宙空間を越え、確かに届いた。「窓から見えるのはやみです。ダンプに乗って砂利道を走っているような気分です」。3分25秒間にわたる、いつも平常心の秋山さんらしい的確なリポート。「ああ、地球はやっぱり青いです」。過去の偉大な宇宙飛行士たちがそうだったように、“眼下に天体を見る”という想像を超える体験をした秋山さんは、その感動を一番簡単な言葉でしみじみと伝えてきた。

 打ち上げの一部始終をバイコヌール宇宙基地の観覧席では、妻・京子さん(41)、元バックアップクルーの菊地涼子TBS宇宙特派員(26)、田中和泉TBS社長らが見守っていた。日ソ以外にも米国、フランスなど計13カ国、140人の報道陣も詰めかけた。打ち上げ成功のアナウンスを聞き遂げると拍手のあらしがわき起こった。

 出発直前の京子夫人との最後の会話では「子供たちには一番好きな弁当を作ってやってよね。スパシーバ(ありがとう)」と、ふだんの出勤風景と変わらないあいさつで出掛けていった、何ともスケールの大きな人。これから始まる数々の劇的な瞬間を、どんな言葉で伝えてくれるのだろうか。日本の宇宙時代は、今始まったばかりだ。

<3分25秒のリポート>

 秋山さんの第一声は、「これ本番ですか?」だった。秋山さんは3分25秒間にわたり、宇宙からの元気で冷静なリポートをした。

 「今、ソビエト上空を飛行中です。やや夕方にかかっておりまして、窓から見えるのはいまのところやみです。先程までに90分かけまして地球を一周してきました。打ち上げ直後は本当に振動といいますか、ダンプに乗って砂利道を走るような感じでした。軌道に乗った直後に体が浮き上がりまして、マスコット人形も天井にたたきつけられて無重力に入り、さまよい始めました。その間、窓が見えなかったんですけど、無重力の世界に入った感じがしました。と同時に、困ったことにガラスの破片がどこからともなく船内をさまよい始めました。ガラスの破片がさまよって危険なので宇宙服を開けられずにいます。打ち上げた後、すぐに陰の部分に入って、太平洋、南極の近く、南米の近くで朝日が差してきました。朝日が差してきましたが、地上を見ることができない。どうしてかというと、今ソユーズはくるくる回転しながら地上200キロあたりを飛んでいるからです。しかし時々窓から見える地平線は丸くて、真っ黒に近い紺が、だんだん黒い宇宙になっている。その下に、かすかに青い地球、やっぱり青いですね」。

<秋山さん世紀の一日>(時間は日本時間)

▼2日午前9・45 起床し、医学検査を受ける。

▼同11・15 30分かけて朝食をとる。

▼同11・45 宿泊した部屋のドアにサインをしてホテルを出発。バイコヌール宇宙基地へ向かう。

▼午後0・45 基地内の組立実験棟に到着。

▼同1・20 宇宙服を着る。

▼同1・55 記者会見を行い、京子夫人と窓越しに対面。

▼同2・20 組立実験棟からバスで出発する。

▼同2・35 発射台下に到着。エレベーターで船内へ向かう。

▼同2・45 宇宙船内に入り操縦席に着く。

▼同4・48 宇宙服の気密チェック完了。

▼同5・13 打ち上げ。日本人として初めて宇宙へ飛び立つ。

▼同5・22 地球を回る軌道に乗る。

▼同6・56 ソユーズから肉声で地球の姿をリポート。

▼同9・00 宇宙で初の昼食をとる。

▼3日午前3・00 宇宙で初めての眠りにつく。

※記録と表記は当時のもの