「原発ゼロ」を唱える小泉純一郎元首相(74)が流した「涙のワケ」を探るドキュメンタリー番組が放送される。

 鋭い視点で斬り込むMBSテレビのドキュメンタリーシリーズ「映像’16」。今回は「なぜ私は変わったのか~元総理・小泉純一郎と3・11」と題したドキュメンタリーが27日深夜0時50分(関西ローカル)から放送される。小泉氏が各地で訴える「原発ゼロ」の講演に密着、06年首相退任後初の単独インタビューにも成功し、「涙のワケ」に迫った。

 「見過ごすことはできない…」。小泉氏は今年5月に訪米し、東日本大震災の「トモダチ作戦」に従事し、福島第一原発沖で被曝(ひばく)したとして、東京電力側を相手に集団訴訟を起こした米海軍の元兵士ら10人と面会し、健康被害の訴えに耳を傾けた。面会後の5月17日(日本時間18日)、米カリフォルニア州南部カールスバッドで記者会見を開いた。

 会見の途中、小泉氏は苦渋の表情を浮かべた。「救援活動に全力を尽くしてくれた米国の兵士たちが重い病に苦しんでいる。日本に何かしてほしいことはあるかと聞いても言いませんね…」。言葉が途切れ、両目から大粒の涙がこぼれた。そこには「郵政民営化」でコブシを振り上げた小泉氏とは違う姿があった。

 米国に同行取材した津村健夫ディレクター(53)は間近で涙を見た。かつて原発を推し進めた国のトップがなぜ180度違う「原発ゼロ」を唱えるのか。「この涙はいったい…。老いのなせる涙なのか? はたまたこの問題に真剣に取り組もうとしていらっしゃるのか。そこを見極めたかった」。

 帰国後、小泉氏の講演会に密着した。5月東京、8月大阪、10月長野、11月新潟、京都…。「なぜ?」を知りたくて5月末からダメもとで何度も単独インタビューを申し込んだ。

 9月14日、東京都内で政界引退後初の単独インタビューを収録した。2011年3月11日、東日本大震災の福島第一原発の炉心溶融(メルトダウン)事故の映像を見た小泉氏は「本当に安全なのかと疑いを持ち始めて原発の本を読み出した。原発推進論者の言う『安全』『コストが安い』『クリーン』、これが全部、ウソだと分かった。こりゃ、(首相時代に原発を推進したことは)ひどいことやっちゃったな」。自省しながら「原発ゼロ」を唱えるようになったきっかけを明かした。

 約1時間に及んだ単独インタビューでは「これ、カットしないでくれよ」と“小泉節”もさく裂した。

 「産業廃棄物業者は自分で産業廃棄物処分場、捨て場所を決めない限り会社を立ち上げることができない。都道府県知事が許可を出さない。なのに原発は核のゴミの処分場、捨て場所が1つもないのにどうして政府が認めるのか」

 各地の講演でも、今回の単独インタビューでも小泉氏が何度も口にした古代中国の思想家・孔子の言葉を記録した「論語」の一節がある。

 「過ちて改めず、これを過ちという(過ちを犯したのに改めない、これが真の過ちだ)」

 単独インタビューでは「涙のワケ」について本人にぶつけた。「政治家は多くの人の前で涙を流すもんじゃない…」と前置きしながら、そのときの心情について語った。

 津村ディレクターは「国是として原発を推進していた国のトップが意見を変えるきっかけとなった3・11の原発事故。なぜ変わったのか。ご本人の言葉で語ってほしかった。視聴者の方にも考えてもらう一助になれば思っています」。感極まって、流した涙から半年が過ぎた。元首相の「変」の本質が浮かび上がる。