前回、大腸の壁を地層のように3つに分けて<1>粘膜<2>粘膜下層<3>筋層に分類しました。

 大腸がんと聞くと、皆さん開腹手術を治療として考えると思います。しかし、中には内視鏡つまり大腸カメラの先端から道具を出して治療を行うことができるがんがあります。治療を決めるために重要なのは、大腸がんがどの深さまで入り込んでいるかです。

 内視鏡で見える<1>の粘膜に粘膜がとどまる状態を早期がんと呼んでいます。私たち内視鏡医がポリープや早期のがんを切除するのは、<1>の粘膜を削る作業です。

 大腸がんは<2>の粘膜下層に浸潤していくと転移を起こす可能性が出てきます。この段階では、中には内視鏡でがんを切除してから診断がつくこともあり切除できてしまいますが、将来的にがんが飛び散る可能性があるので基本的には手術が必要です。

 進行がんは<3>の筋層までがんが達している状態です。内視鏡での見た目にもかなりいびつな形となります。この段階まで達していると内視鏡で治療することはできません。症状が出たから検診を受けるのでは遅いことを以前に説明しました。

 進行がんになると腫瘍は大きくなり出血しやすくなります。大腸の壁の外側までがんが進めば痛みが出ることもあります。お通じの通り道をふさいで便が出にくくなることがあります。治療としては手術を選択し、周りの血管やリンパ管も同時に切除することで、がんが他の臓器に飛び散ることを防ぐ必要があります。

 大腸がんと診断されたら、おなかを切らずに大腸がんを治療したいと誰もが考えます。大腸がんの治療法は深達度つまり深さにより決まります。内視鏡で治療を受けたいと相談に来る患者さんも多くいますが、どの段階でがんが見つかったかが非常に大切です。

 ◆池谷敬(いけや・たかし) 1981年(昭56)9月21日、静岡県出身。浜松医科大卒。2012年から東京・中央区の聖路加国際病院勤務。内視鏡で粘膜下層を剥離するESDという手法で、大腸がんに挑んでいる。