平たくて大きなポリープをEMR(内視鏡的粘膜切除)で切除しようとすると、スネアという金属製の輪がうまくかからずに1度で切除できないことがありました。分割切除と呼ばれる数回輪をかけて切除する方法では、目に見えないようなポリープの細胞が残って同じ場所から再度ポリープが再発する可能性があります。

 1度にきれいにポリープを取ることを一括切除と呼んでいます。平たくて大きなポリープを一括切除するために登場した方法がESD(Endoscopic submucosal dissection=内視鏡的粘膜下層剥離)という方法です。

 ポリープの周りに印をつけ切除したい形をデザインします。その後、ヒアルロン酸という液体をポリープやがんの粘膜下に注射します。ヒアルロン酸は化粧品の成分で聞いたことがあるのではないでしょうか。ただの水より少し粘りがあり、この液体が入ることで平たいポリープも山なりに盛り上がった状態が長く続いてくれます。

 盛りあがったポリープを刃先が薄いナイフで、事前につけた印の外側を切除します。次に粘膜下層をそぐように剥離します。ポリープがある部分の粘膜をはぎ取ってくる治療です。治療時に我々が最も気を使うのが、穿孔(せんこう)といって穴が開いてしまう合併症です。大腸はお通じが通過する道なので穴が開いてしまうと、緊急の開腹手術が必要となってしまいます。

 平たくて大きなポリープを取るための治療ですが、大腸の壁は非常に薄いので使うナイフの刃先は1・5ミリです。小さなポリープで1時間程度、大きなポリープでは2時間程度かかることもあります。基本的に入院が必要な治療となり、当院での平均入院期間は5~6日程度です。時間が長くかかることもありますが、大きなポリープでも開腹手術を行わず、お尻から入れた内視鏡で治療を行うことが出来るのが最大のメリットです。

 ◆池谷敬(いけや・たかし) 1981年(昭56)9月21日、静岡県出身。浜松医科大卒。2012年から東京・中央区の聖路加国際病院勤務。内視鏡で粘膜下層を剥離するESDという手法で、大腸がんに挑んでいる。