さて、ここでおさらいです。大腸がんは大腸の壁の内側から外側へ広がっていきます。1番内側にある粘膜までにしかがんがなければ内視鏡で治療が行えました。しかし2番目の粘膜下層には比較的太い血管やリンパ管があるので、がんが飛び散る、つまり転移の可能性があるということでした。

 実際、内視鏡で治療する際には、最も浅い粘膜にしかがんがないと思って治療を行います。しかし、切除したがんを顕微鏡で詳しく観察すると、2番目の層である粘膜下層にがんが入り込んでいることがあります。

 治療が終わるとすぐに患者さんから「取った病変はがんだったか?」と質問されます。表面の模様からある程度がんであるかは分かりますが、問題はがんの深さです。

 ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)で取った病変は顕微鏡検査に回ります。病理医という、顕微鏡でがんを見るスペシャリストの医師が、がんがどの深さまで入っているかを診断します。

 粘膜下層までがんが入り込んでいる場合、大腸の壁の外側にある血管やリンパ節にがんが入り込んでいる可能性が15%程度あります。血管やリンパ管にがんの細胞が残った状態では、どんなに内視鏡で表面のがんを削り取っても100%根治したとは言えません。

 粘膜下層に入り込んでいるがんであると分かったら血管やリンパ管も切除する手術を受けます。これで将来的に目に見えないがんが増えることを心配せず過ごせます。

 せっかく内視鏡で病変を切除したのに、追加で手術が必要になるのは内視鏡で治療を行う医師にも患者さんにとっても残念なことです。しかし近年、腹腔鏡(ふくくうきょう)の手術が進歩し、外科の先生にお願いする追加治療も大きく変化してきました。

 次回から数回は当院の外科で大腸がん治療のスペシャリストである大東誠司先生に腹腔鏡での外科手術やロボット支援手術に関して説明してもらいます。

 ◆池谷敬(いけや・たかし) 1981年(昭56)9月21日、静岡県出身。浜松医科大卒。2012年から東京・中央区の聖路加国際病院勤務。内視鏡で粘膜下層を剥離するESDという手法で、大腸がんに挑んでいる。