新潟県糸魚川市の中心部で22日、大規模火災が発生した。強風にあおられて火の勢いが衰えず、商店や住宅など約140棟に延焼。午前10時半ごろに中華料理店で火災が起き、ほぼ消し止める鎮圧状態までおよそ10時間半を要した。40代の女性2人が煙を吸うなどして軽症。市は付近の約360世帯(約740人)に避難勧告を出した。県は災害対策本部を設置し、自衛隊に災害派遣要請した。

 体を揺さぶられるほどの強風が吹き付ける。火災発生から8時間が経過した午後6時半ごろも火は勢いを増していた。大量に流れる煙の先には、真っ赤な炎が見えた。目の前で燃えていたのは、創業195年の老舗料亭「鶴来家」。火元となった中華料理店からは約300メートル離れていたが、炎にくるまれた。

 料亭の経営者、青木孝夫さん(67)は、避難した高台から火の手を見つめながらぽつりと話した。「ここまできれいに燃えちゃうと言葉もない。この辺りは昔から飲み屋街。歴史ある酒蔵も燃えてしまった」。

 ヤクルトレディの20代女性は、火事が起きた10時半ごろに近くを通り掛かった。「最初はやじ馬が多かった。だんだん黒い煙が大きくなって…」。一気に燃え広がると、現場から500メートルほど離れた糸魚川市役所からも火の柱が見えたという。「近隣は道幅も車1台通るのがやっと。最初は小さい消防車が1台来たが、後で何台も中に入っていけない」と振り返った。

 中華料理店の8軒隣に住む90歳男性と84歳妻は、火災直後の自宅前の様子を「地をはうように炎が迫ってきた」と証言。着の身着のまま避難した状況を振り返った。70代の男性は「黒煙が空に大きく広がった。あんなに強い風も吹いて。人間の力で消し止めようなんて無理な話だよ」と嘆いた。「この辺は風が強いから、よく大火があるんだよ」。男性は目の前に広がる惨状をにらみながら、声を絞り出した。【小松正明】

 ◆糸魚川市(いといがわし)新潟県南西端、姫川下流の市。糸魚(いとよ)が市内の河川に多かったなど、地名の由来には諸説ある。1954年(昭29)に1町8村が合併して市制施行。ヒスイなどの鉱物資源、南蛮エビなどの水産物、景勝地の親不知などが有名。人口4万4510人(今月1日現在)。