第156回芥川賞の選考会が19日、東京都内で開かれ、芥川賞に山下澄人さん(50)の「しんせかい」(新潮7月号)が選ばれた。山下さんは、脚本家の倉本聡氏(82)が作った「富良野塾」出身。

 4回目のノミネートで芥川賞作家となった山下さんは受賞会見で、「人ごとみたいな感じです。僕が芥川賞作家、うそやろーって思うし、友達もびっくりするだろうと思う」と照れながら話した。

 倉本聡氏が私財を投じて1984年(昭59)、北海道・富良野に開設した養成所「富良野塾」の2期生。神戸市で生まれ育ち、「ブルース・リーになりたい」と思っていた山下さんは、誤配された新聞の告知欄を見て倉本氏のこともよく知らないまま応募したという。2年間、共同生活しながら昼は農作業、夜は講義を受けた。

 受賞作「しんせかい」は、19歳のスミトが演劇塾に入り、農作業をしながらけいこに励む2年間を描く。うとうとしては「先生」に叱られる。富良野塾での自身の体験を生かした王道の青春小説だ。倉本氏に対しては「(単行本の)題字まで書いていただいて『ありがとうございます』しかないです」。若いときに両親を亡くした山下さんにとって倉本氏は「父親みたいなもの。記者会見をどこかで見て怒られるかな。『ちゃんとしゃべれ』って(笑い)」。受賞は留守電に入れた。塾の同期には「Drコトー診療所」シリーズなどで知られる脚本家の吉田紀子さん(57)がいる。

 ふだんは電車内でスマートフォンを使って執筆している。芥川賞作家になってスタイルは変わるかと聞かれると、「ないです」と答えた。

 ◆山下澄人(やました・すみと)1966年(昭41)1月25日、神戸市生まれ。高校卒業後、「富良野塾」で演劇を学び、96年に劇団FICTION旗揚げ。12年「緑のさる」で野間文芸新人賞。「ギッちょん」「砂漠ダンス」などで過去に3回芥川賞候補になった。