トランプ米大統領が、ついに日本の為替政策にケチをつけ始めた。1月31日(日本時間2月1日)、安倍政権が円相場を安値に誘導していると批判、ドル高是正に強い意欲を示した。安倍晋三首相は、衆院予算委員会で「批判は当たらない」と反論。10日の日米首脳会談で説明する意向だが、野党からは「人のいい総理が手玉に取られないか、心配だ」の皮肉も。強気一辺倒のトランプ氏に、首相が「物言い外交」で迫ることはできるのか。

 「私がやれば何とかなる。総理は『過信外交』になっている」。首相の天敵、民進党の辻元清美氏は衆院予算委員会で、首相の外交姿勢をこう指摘。昨年のトランプ氏との会談直後、大統領就任直後のTPP脱退が発表された例も挙げ、「総理は、私より人がいいのかしら」と皮肉った。

 イスラム圏7カ国からの入国を制限した大統領令に関し、他国首脳に比べて「物言い不足」が指摘される首相。「各国首脳が発言するのは、自国にテロが及ぶのを恐れているから。10日の会談では、テロとの戦いを同盟国として最大限支持するとか言わない方がいい」と求められたが、「私は辻元さんより人はいいかもしれないが、交渉力はしっかりある」と豪語。「だから心配しているのよ」とヤジられると、「(昨年、真珠湾で)寛容や和解の力が重要と申し上げた立場は今も変わらない」と述べた。

 首相は、入国制限の問題に関しては明確な批評を避ける「ダンマリ作戦」を貫き、他国首脳と温度差がある。ただ、政府高官は「批判しても政策は変わらない。トランプ氏を怒らせるだけ」と主張。トランプ氏との信頼関係構築を優先するための「戦略的沈黙」の立場を崩すつもりはない。

 そんな首相も、トランプ氏が言いがかりのように突きつけた「円安誘導」批判には、さすがに黙っていなかった。辻元氏とのやりとりに先立つ質疑で、「彼らの批判は当たらない」と反論。為替政策の転換を迫られれば、肝いりのアベノミクスにもさらなる打撃となる。首相は「為替の問題を含め、経済、貿易に関して日米間でよく意思疎通を図っていくことが重要。必要あれば説明する」と述べ、10日の日米首脳会談で言及する可能性を示唆した。

 「トランプ氏は、取引外交だ。人のいい首相が手玉に取られないか心配している」。辻元氏が指摘したトランプ氏の外交手法に、首相が「物言い外交」で迫れるのか。10日の会談の大きな焦点だ。【中山知子】