ペーパードライバー、高齢ドライバー向けの出張運転教室に「伝説の運転指導員」がいる。3月1日で80歳を迎える峰岸栄一さんは、運転指導員歴55年以上を誇る大ベテランだ。スターズアンドハーツ社による、関東1都3県で出張運転教室のサービス立ち上げメンバーとして参加。今なお現役で、ドライバーの指導に当たっている。

 「数えたことがない」ほどの教え子を持つ峰岸さんは、高齢ドライバーについて「感覚のずれと動体視力の衰え」が、事故の原因だと指摘した。

 神奈川県内の山の上に住む人に、出張指導にいった時のことだ。

 「息子さんから『父親がちゃんと運転できるか見てほしい』と。一緒に乗ったら、山道の下り坂をどんどん下りるものだから、怖くてね。でも本人は全く怖がっていない。感覚がずれているんです。今の状態では運転してはいけないから、ちゃんと練習してくださいと伝えました。3回くらい指導して、ようやくなんとかなりました」

 高齢になるほど、仮に誤った運転をしてきたとしても、事故を起こしていなければ「これで正しい」という自負が生じる。その先に、大事故が待っていたというケースは多いという。

 身体能力を問題視されることも多い高齢ドライバーの事故だが、峰岸さんが注目するのは動体視力だ。

 「50歳を過ぎると一気に下がる。70歳になれば、もう0点台。動体視力が落ちれば、遠近感もおかしくなる。高齢者で目のいい人なんて、100人に1人くらいじゃないですかね。耳が不自由な方でも運転はできますから、それだけ目は大事。高齢者には必ず、夜は運転しないでと言います。あとは雨の日。ライトが反射してなおさら見えにくい」

 峰岸さんも、免許を取得して50年以上が経過したが、無事故無違反が続いている。「私もこの年ですから、高齢ドライバーに指導するなんて老老介護みたいなものですね」と笑った。過信は禁物。常に自分にも問いかけながら、指導を続けている。【小松正明】