福島県富岡町の米農家渡辺伸さん(56)が23日、東京電力福島第1原発事故による避難指示解除後初となる7年ぶりの田植えを行った。町では今年、地元農家の組合と渡辺さんを含む個人農家3人が実証栽培を行っている。「作業してっと、本当に戻ってきたなあって気持ちんなる。生き生きしてられんのは、私の場合、これだから」。苗が並んだ水田を見渡すと、日焼けした顔に笑みがこぼれた。

 事故前は10ヘクタールの水田でコシヒカリを育てていた。今回はその1割にも満たない自宅前の水田60アールに、県開発の丈夫な品種「天のつぶ」の苗を植えた。農地除染が昨春に終わったのを受け、避難先のいわき市で始めた復旧作業の仕事を退職。水田の手入れに本腰を入れた。除染で表土を5センチはぎ取られ、大きな石ころが掘り起こされた。その石を2カ月かけて手作業で取り除き、代かきは通常2回のところ10回も行った。すべては事故前の当たり前の生活を取り戻すためだ。

 田植えの終わった水田にはアメンボが走り、水色のトンボも飛んできた。「この雰囲気。天気が良くて、風が吹いて、田んぼに苗がある。これなんだよ」。9月末には、金色に輝く稲穂が揺れているはずだ。【清水優】