相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で障害のある入所者19人が殺害された事件から26日で1年。殺人容疑などで起訴された元職員植松聖被告(27)はいまだ「意思疎通ができない人間を安楽死させるべきだ」などと独善的な主張を続けている。「冗談じゃない-」。被告の負の主張に対し、障がい者と健常者によるプロのロックバンド「サルサガムテープ」が、爆発しそうな思いを新曲「ワンダフル世界」に乗せ、カウンターメッセージを発信している。

 八王子市のライブハウス。車いすのYouGo(24)が、マイクに叫んだ。「こんな俺でも楽しくロックン・ロールできてんだ。俺、こんなに楽しく生きてるぜ。思いっきりやってやろうぜ!」。

 元ザ・ブルーハーツのドラムス梶原徹也(53)がハイテンポなビートをたたき出す。パーカッションの臼井公太(24)が、動かせる左足で、カウベルを打ち鳴らす。電飾衣装の米田光晴(68)はポリバケツにテープを張った「ガムテープ太鼓」にバチを打ち付けた。

 1つ1つの音が混ざり合って生み出したグルーブにフロアの客も激しく踊る。障がいがあるなしなんて関係ない。そこにあるのは、笑顔と、ぶっ壊れそうにハイテンションな問答無用のロックン・ロールだけだ。

 リーダーは「5代目うたのおにいさん」のかしわ哲(67)。神奈川県秦野市の障害者施設で94年に結成した。メンバーは、芸術のパフォーマンスを障がい福祉サービスの中心に置いたNPO法人ハイテンション(厚木市)の事業所に通う障がいのある13人と、健常者7人の20人。「他の福祉事業所でクッキーを焼いたりするようにロックをやっている」。メンバーの仕事は、プロのロックン・ローラー。ライブのギャラがメンバーの「工賃」だ。

 結成から23年。かしわは、「売名行為と散々言われた」というが、「よくミュージシャンが『メジャーになりたい』って言うけど、それって売名行為でしょ」と、バリアフリーバンドの先陣を切って突っ走ってきた。「2020年東京オリンピック・パラリンピックまでに、障がいのある人もない人も含めたどんな社会を世界に示せるのか」。15年からそんなテーマのツアーも始めた。これからという時、事件が起きた。

 元メンバーの1人は、今も津久井やまゆり園の入所者だ。別の元メンバーは、虐待を受けたため、10年以上前に同園から別の園に転園させたという。入所者の元メンバーは後に別の棟にいて無事だったことが分かった。転園した元メンバーは、かしわさんに「あのままいたら殺されていた」と話したという。

 植松被告は、障がい者を支援する側の職員だった。それが、どうして、「重複障害者は生きていくのは不幸だ」「意思疎通のできない人を刃物で刺した」「抹殺することが救済」などという独善的な主張がなぜ出てくるのか。「メンバーにも言葉が出ない人もいるし、最重度の人もいる。それでも、個と個がつながっていれば意思の疎通はできる。被告には、被害者がひとかたまりの『障がい者の皆さん』にしか見えていない。でも、『障がい者の皆さん』なんて人間は1人もいない。いるのは1人1人の個人なのに」。