社会人アメリカンフットボールの国内トップリーグ・Xリーグで、現役警察官のチームが奮闘している。「疾風の九機」と呼ばれる警視庁第9機動隊の「警視庁イーグルス」だ。選手は警備や水難救助、爆発物処理などを任務とする隊員たち。日々の過酷な訓練で鍛えた組織力を、非番や休日に行うアメフット練習でさらに磨き上げ、企業チームと渡り合っている。トップリーグ昇格4年目の今年は、昨年以上の勝ち星を狙う。
東京都江東区新砂。区立運動場の人工芝の上で、白地に紺のユニホームの隊員たちが激しい音を立ててぶつかり合っていた。太い腕、敏しょうな動き、緻密な連係。「守りのプロ」である機動隊の中でも、運動能力の高い選手が集まり、休暇を利用したアメフットで、さらに体を鍛え抜く。今季主将となった貫井優作巡査長(30)は「春の人事で主力選手が機動隊から署での勤務に異動になったが、若手が成長している。昨年以上の成績を上げたい」と話す。
イーグルスは、警視庁第9機動隊第3中隊のアメリカンフットボールチームだ。歴史は古く、1971年(昭46)に「隊員の心身の鍛錬と士気高揚を図り、都民に親しまれる機動隊を」との目的で発足した。巡査から巡査部長まで20~30代の選手約50人が所属。監督、コーチも含め、全員が現職警察官だ。
創部当初は「経験者はおらず、野球、ラグビー、バレーボールなど他競技出身者ばかりだった」(監督・藤田卓巳警部補=45)という。しかし、持ち前の体力と組織力で02年にX2リーグに昇格。徐々に大学リーグ経験者も増え、13年にXリーグに昇格。15年は1勝、16年は2勝と勝ち星を積み上げ、トップリーグでも存在感を増している。
警視庁のチームだが、本業は警備と訓練で、アメフットは勤務時間外の非番の自由時間や休日に行っている。前日朝から泊まり勤務を経て、昼まで柔道や剣道、爆発物処理などの訓練を行い、非番の午後にアメフットの練習後、隊に帰って水中での証拠検索訓練などを行うハードスケジュールもざらにある。
それでも、貫井主将は「最初は体はキツイですが、慣れます。選手たちはみな、まず警察官になりたくて警視庁に入っており、アメフットも好きでやっていますから」と笑顔。タフさは折り紙付きだ。運動能力、洞察力、連係能力に秀でた好選手に成長すればするほど、警察官としての能力を買われ、SPや刑事などの部署に“引き抜かれる”ことも多い。他チームにはない警察組織特有の事情だが、再びチームに戻るベテランも多く、若手との切磋琢磨(せっさたくま)で実力を積み上げている。
九機の拠点は2020年東京オリンピック・パラリンピックで体操、水泳、バレーボールなど競技会場がひしめく江東区。「アメフットで鍛えた忍耐力、精神力で警備を完遂したい」(藤田監督)と、五輪警備に向けた士気も高まっている。【清水優】
◆警視庁機動隊のスポーツ 第1~第9機動隊と特科車両隊の10隊の機動隊があり、各隊にスポーツクラブがある。「近衛の一機」には卓球とハンドボール、「カッパの二機」にはボート、「ほこりの三機」のラグビーは社会人1部リーグ所属だ。「鬼の四機」には近代5種、フェンシング、野球、「学の五機」にはサッカー、空手道、「若鹿の六機」のレスリングはこれまで7人の五輪代表を出し、00年シドニー五輪で銀、04年アテネ五輪で銅メダルを獲得。「若獅子の七機」にはバスケットボール、「蜂の八機」のウエートリフティングは68年メキシコ五輪で銀メダルを獲得したほか、相撲もある。「技術の特車」にはバレーボールがある。