将棋の第30期竜王戦を制し、同時に「永世7冠」の称号も得た羽生善治竜王(47)の就位式が16日、都内のホテルで行われた。国民栄誉賞決定後、初の公式セレモニーへの登場となった。就位式の前には、竜王戦のランキング戦(予選)6組で優勝した史上最年少プロ、藤井聡太四段(15)とそろって会見。両者は2月17日に行われる第11回朝日杯オープン戦の準決勝で公式戦初対決するが、羽生は「手ごわい存在」と早くも警戒していた。

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 羽生が、視線を合わせない。持ち時間20分設定の記者会見。右隣に座った32歳下の最年少棋士に対し、終始、体を左に30度ほど傾けていた。対局時に相手をにらむ「ハブニラミ」は封印したが、撮影で握手を求められても、右手を差し出しただけ。目線はカメラマンの方に向け続けた。

 明らかに意識していた。来月対戦を控えている藤井は、14日の朝日杯オープン戦準々決勝で、佐藤天彦名人を撃破。14歳2カ月の史上最年少プロ入り、将棋界の連勝新記録となる29連勝を昨年6月に達成するなど、新たな将棋界のスター候補だ。しかも、16年12月のデビュー戦以来58勝11敗で、8割4分1厘と脅威の勝率を誇る。「強豪を打ち破って勝ち上がってきたのは立派。勝率も考えられない大変な数字。結果だけでなく内容も伴っている。手ごわい存在です」と認めた。

 非公式戦では1勝1敗。土をつけられた時には、「すごい人が現れた」と評した。連勝中は常にコメントも求められた。「どこかで顔を合わせると思っていた。こんなに早く実現するとは」と驚いた。佐藤戦についても、「内容が良く手厚い。少しずつリードを広げていく指し回しに感心しました」とした上で、「対戦するにあたり、張り切って自分の持てる力を出し切りたい」と全力投球を宣言した。

 今回の第30期で15期ぶり7期目の獲得を果たした竜王は、89年12月の第2期で初タイトルとして獲得している。「藤井さんにとって半分は歴史上の出来事でしょうけど」。経験の差を口にしてけん制球を投げた。

 会見後の就位式では「初心忘るるべからず」という言葉を引用して、謝辞を述べた。「将棋を最初に覚えた時、棋士を志した時、初めてタイトルを取った時、今日のような時。この気持ちを忘れないで、前に進んで行きたい」。まだまだ若者には負けないとも取れるメッセージだった。【赤塚辰浩】