どっちがうそつき? 安倍晋三首相は11日の衆院予算委員会で、学校法人「加計学園」の獣医学部新設計画をめぐり、「首相案件」などと書かれた愛媛県職員作成の「備忘録」に対する論評を避けた。自身の関与や学園の要請を否定した上で、記憶を根拠に「首相案件」発言を否定した柳瀬唯夫経産省審議官を「信頼する」と主張。記録より記憶を“信用”した。野党は、県職員、柳瀬氏の「証人喚問対決」を提案。与野党の怒号、首相秘書官のやじまで乱れ飛ぶ騒然とした審議で、安倍政権は疑惑を晴らすことができなかった。

 加計学園の獣医学部新設計画を、首相秘書官が「首相案件」と述べたと書かれた「備忘録」の判明から一夜明けた国会。首相はいつになくペーパーを棒読みし、やじに敏感に反応した。

 「(自身に批判的な)前川喜平氏を含め、私から指示を受けた方は1人もいないと明らかになっている」「(国家戦略特区諮問会議の)民間議員からも、プロセスに1点の曇りもないと明確な発言があった」。自身は無関係とする従来の説明を繰り返し、そのたびに質疑が止まった。

 備忘録についても「都道府県の作成の文書で政府の文書ではない。政府としてコメントする立場にない」と、延々と繰り返した。一方で、15年4月2日に官邸で愛媛県や今治市側と会ったとされる柳瀬氏について「私は部下を信じて仕事をしている。柳瀬氏の発言は信頼している」と述べた。

 愛媛県職員は文書を残したが、柳瀬氏は記憶を根拠に面会を否定。立憲民主党の枝野幸男代表は「柳瀬氏がうそをついているか。県職員が聞いてもないことを勝手に書いたか、2つに1つだ」と指摘。「愛媛県がうそをつく必然性はない。柳瀬氏や首相がうそをついているのにごまかし、逃げ切ろうとしている」「国民のほとんどの皆さんは、総理がうそつきと分かっている。柳瀬氏と職員を2人並べ、話を聞くしかない」と述べ、偽証罪に問われる証人喚問での決着を訴えた。

 備忘録には、首相、加計孝太郎理事長、下村博文元文科相が会食で、計画について話したような記述もあるが、首相は否定。加計氏について「私の地位を利用して何かを成し遂げようとしたことは、1度もない」と、あらためて主張した。

 首相は新設計画を昨年1月20日に初めて知ったとしており、会食が真実なら答弁の正当性が崩れる。14年末までの加計氏との会食日を3日分、列挙し「私の記憶では(これ以降は)ない」と発言した首相は、希望の党の玉木雄一郎代表に「最近は『記憶にない』がはやっているのか」と皮肉られる始末。「愛媛県知事は備忘録を本物と言い、首相答弁がうそと示唆している。これでは内閣総理大臣の証人喚問になる」と、うそつき呼ばわりされた首相は、玉木氏に「うそつきと言う以上、証拠を示してもらいたい」と、反論した。

 矛盾する答弁もあった。内閣府は15年4月2日の官邸での面会を承知しないとする一方、「向こう(今治市)は行ったと言っている」と、苦し紛れに答えた。財務省の文書改ざん、防衛省の日報問題と異なり、加計問題は首相の責任に直結する。首相は「私の関与がないのは明白」と主張したが、疑惑を晴らす場にはならなかった。【中山知子】