「囲碁に認知機能の低下抑制効果がある」と研究している医師がいる。東京都健康長寿医療センター研究所(板橋区)の飯塚あいさん(30)だ。今年1月、このテーマで米国の認知症関連の学術雑誌に発表した。2015年(平27)2月から実験開始。平均89歳前後で囲碁の経験のない認知症の施設入居者らに声を掛け、教える人たちと、教えない人たちに分けた。

 週1回1時間、計15回行い、9路盤(本来は19路盤)で打てるようになる入門講座を行った。実験の結果、囲碁を教えてもらった人たちは、つまずかないようにするなどの「注意機能」、複雑な情報を保持して処理し、対応する「ワーキングメモリー」の維持や向上の可能性が示された。教えない人たちは低下したという。

 ボードゲームは、ほかにもある。「将棋は各駒の動き、マージャンは手役を覚えるのが大変。囲碁で覚えるのは『交互に打つ』『線と線の交わる点に打つ』『相手の石を上下左右に囲めば取れる』の3つ。あとは好きな場所に打っていい。簡単なのが受け入れられやすい」(飯塚医師)。

 しかも、局面に応じて絶えず考える。序盤は空間の感覚が必要。中盤は相手の打ち方を読み、注意する。終盤は陣地の計算(黒、白の順で打つ囲碁は置いた石の陣地=目=の広い方が勝ち)する。頭の働かせ方が違うだけでなく、常に新しい方法を考える。それが脳の活性化につながるという。

 高齢化社会の波は確実に来ている。飯塚医師は力説する。「薬を使わない認知症へのアプローチとして、囲碁の効果には可能性があります。興味を持って楽しんでもらえれば、知的活動を通して社会的な交流もできます」。【赤塚辰浩】

 ◆飯塚(いいづか)あい 1988年(昭63)1月7日、東京都世田谷区生まれ。日本女子大付属高、埼玉医大卒。中1で囲碁を始め、プロを目指したこともある。「囲碁による認知症予防、高齢者の生活向上や介護予防に結び付けたい」と老年医学を志す。東京都健康長寿医療センター研究所勤務。

 ◆認知症 脳の知的な機能が衰え、社会生活を営めなくなる病気。最大の要因は加齢だが、生活習慣などの影響も受ける。徘徊(はいかい)、妄想、うつなどの行動や症状が出る。団塊の世代が75歳以上になる2025年には、患者数は約700万人になるとされる。