千葉県松戸市のベトナム国籍の小学3年生レェ・ティ・ニャット・リンさん(当時9)が殺害された事件で、強制わいせつ致死、殺人などの罪に問われた渋谷恭正被告(47)の裁判員裁判第6回公判が12日、千葉地裁(野原俊郎裁判長)で開かれ、京大医学部教授で法医学の権威玉木敬二氏(60)が出廷した。

 玉木氏は、事件現場から採取される複数人のDNA型が入った「混合DNA型」に詳しく、刑事裁判などでも多数の証人を務めた法医学の権威。混合DNA型が多数採取された今回の事件のDNA型鑑定について解説した。

 検察側尋問で、リンさんの遺体の腹部から採取された、リンさんと渋谷被告の持つDNA型だけがすべて含まれた混合DNA型について、「(型だけでなく)このDNAが、被害者と被告人の(固有の)DNAである可能性は、被害者と第三者のDNAである可能性の約350京(兆の1万倍)倍だ」と証言した。科学警察研究所が調べた日本人1350人のDNA型の組み合わせの種類の中で、この個別の組み合わせが出現する可能性を比較して、計算で導き出したという。

 DNA鑑定の捏造(ねつぞう)の可能性に言及し、無罪を主張する弁護側は「計算は適正なDNA鑑定のデータが使われていることが前提か」とまず確認し、捏造データが前提なら計算自体が成り立たない可能性を指摘した。その上で「被害者はベトナム人だが、加害者が外国人でも(計算は)変わらないか」と質問。玉木氏は「日本人と(生物学的に差のある)米国の黒人のデータで計算しても200倍ほどしか違わない」として、誤差の範囲であり、大きな違いは出ないと解説した。

 また弁護側は、採取されたDNAを鑑定のために試薬を使ってコピーを増やす「増幅」と呼ばれる作業の際に副産物として生じる「スタター」が、DNA型のように検査表に表れることについて「アリル(実際の型)とスタターを明確に区別をできない可能性はあるのか」と質問。玉木氏は「可能性はある」とした。

 千葉県警の科捜研が行ったDNA鑑定結果は、スタターの可能性も考慮し、検出量が規定値に満たなかったものを「不詳」としたDNA型データもある。しかし、玉木氏は渋谷被告のキャンピングカーから押収され、「不詳」データも検出されているSM用手足錠と目隠しマスクから検出されたDNA型について、弁護側尋問で「(検出されたDNAの量では)被害者のDNA型が6~8割を占めており、被害者のDNAが入っているのは有力だ」と証言した。